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『風酔い盆』佐藤剛


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9月期優秀作品

『風酔い盆』佐藤剛

 

 岡山駅で私達三人が揃ったのは、事前に決めた時間通りだった。時間にルーズだったのぞみも定刻に来た、という事に私とかおるは顔を見合わせて笑いあった。成長ってするものね、と。それを聞いたのぞみは頬を膨らませ、云う。
「そりゃあ、ねー。私が社会人になってからのキャリアを一番積んでるんだよー」
「当たり前でしょ、一番年上なんだから」  
 かおるが、何時ものようにのぞみに突っ込む。
「大体、のぞみちゃんが一番近いんだからね」  
 私もかおるの尻馬に乗って云う。一番遠いかおるを差し置いて云う事ではなかったかも知れないが、何時も威張れないような事で妙な威張り方をするのぞみには、つい云ってしまう私だった。
「そうだけどさー」  
 と云って、のぞみは軽く受け流してしまう。こういう所が、私達がのぞみが一番上にも関わらず、何でも云えてしまう由縁でもあった。それは、のぞみの人徳、とも云えるだろう。  
 岡山駅から、実家のある駅までは赤穂線を使う。赤穂線は、基本的に一時間一本、多くても二本、というローカル線なので、こうした待ち合わせには、どうしてもシビアになってしまうのは仕方ない事だろう。赤穂線に乗るのも久しぶりだった。海の近くを走る路線なのだが、何故だか海は殆ど見えない。その換りと云うのも変だが、田園風景、というのだろうか、緑がとても美しい路線だ。岡山駅から十駅、乗車時間は三十分程度であった。昔、——と云ってもそれほど昔な訳ではないが、離れて住むとどうしても、そう云ってしまうのは何故だろうか———-よく使っていた時そのままであった事が、私は妙に嬉しかった。  
 成人してしまった私達三姉妹が実家に全員揃うのは、一年の内でお盆だけになってしまっていた。正月すらも、なんだかんだで誰かしら仕事があったりするので、必ず一人二人は欠けてしまう事がある程だった。しかし、お盆のこの日には必ず、父の居る実家に、私達三人は集うのだ。  
 家族全員で、集まる為に。  
 世間的、暦的にはお盆であるが、私たちにとっては、それは母の命日、というのが大きい。  
 折りしもお盆、という事で大手を振って母も帰ってきてくれるだろう、という事で文字通り『全員揃う』日でもあるのだ。
 私は仙台、長姉ののぞみは香川、次姉のかおるは沖縄、と見事にばらばらの三人なのだけれど、地元の駅には三人丁度揃えるように時間も決めておいた。そうすれば、父が車で迎えにくるのは一回で済む。実家から駅までは三十分以上あり、それを最大三回させよう、というのは大変だろう、という娘達からのせめてもの心遣いだ、と云える。なら、車を持っている旦那でも捕まえてくればいいのに、と云う所なのだが、まぁ心遣いというのは出来る最大限の事で、という辺りで私達はお茶を濁している。  
 到着した駅は、相変わらずの無人駅だった。静かなその佇まいはそれだけで私を安心させてくれた。帰ってきたな、と云う実感が湧くのが、矢張りこの駅に降り立った時なのだ。一つ隣の駅は備前焼の登り窯が特色であり、数々の工房や作家が窯を構え、古くから由緒のある町として有名であったが、私達の町にはそれは届かない。ただただ穏やかな時間が流れているのみであった。しかし私は、それだからこそ、この町が好きだった。  

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