「でもなんか、お墓とか仏壇ばっかり気にしてるじゃない。」
そこで話をやめ、お茶をすすり始めた夫を見ながら、私はどうしたらいいかわからず、少しだけ余っていた自分のモンブランをフォークで削ってちまちまと食べた。モンブランの美しいぐるぐるは、ぽろぽろと崩れた。
母は、全部で10着ほどの服を抱えてきた。写真と同じ淡いブルーのTシャツが半分、いろんな生地のベージュか茶色のズボンが少し。それに、いつも父がかぶっていた青いキャップがひとつだった。
「帽子はね、これなの。シャツはどれかしら。」
「これは違いますね、写真のは胸の所に何か書いてあります。」
「あら、じゃあこれかな。そうだそうだ、これだ。」
私は手伝う気にもならず、二人が楽しそうに服を探すのを見ている。
「ズボンは難しいですね。無地だし。」
「写真じゃ色がね、わかりにくいね。」
結局、まったく同じズボンはわからず、一番似たようなものを選び出したようだ。
夫は仏壇に近寄ると、手を合わせて、
「お義父さん、お借りします。」
と呟くと、選び抜いた洋服に着替え始めた。母は写真の自分と同じ服を探していたようだが、諦めて少しだけ似た上品なワンピースに着替えていた。
車に乗って三時間ほど、私たちはグアムとは程遠い、千葉の海にいた。もう9月だというのに、海には水着姿の若者や家族連れなど、休日を謳歌する人々であふれていた。私たちはなるべく人がいないところへ歩いていく。スニーカーで歩く砂浜は居心地が悪い。夫は父の古い革靴を履いている。ろくな手入れもされず靴箱の奥に押し込まれていたそれは、十何年ぶりに歩く地面の柔らかさに戸惑っていた。スニーカーなんかよりもさらに居心地が悪いだろう。グアムの海辺に革靴など履いていくわけがないと私は言ったが、かといって、父がビーチサンダルを履いているのも想像がつかなかった。母も何を履いていたかまでは思い出せなかったようで、ウーンウーンとうなっていた。頼みの綱の写真は、足首のあたりで切れてしまっていたので確認がとれなかった。問題は解決しそうにもなかったので、よく履いていた革靴でいいだろうということになったのだ。サイズも、使用用途も合わない革靴を履いてロボットのように歩く夫を見て、心の中で何度も謝る。せっかくの休日に、こんな変なことに巻き込んでしまって申し訳ない。そんな私の気持ちはつゆ知らず、母は子供のようにはしゃいでいる。
「お義父さんの口癖って、何だっけ。」
夫がこっそりと私に聞く。そんなこと良いのに、と思いながらも答える。
「はやくしろ、しっかりしろ。」