「ただいま。えーっと、そっちの子はマイコの友達?」
「うんっ!キリちゃんとそのお母さんだよ」
俺にいち早く気付いて走り寄ってきたマイコに、蚊取り線香の缶を手渡す。マイコは俺に小声で友達を紹介すると、素早く缶を元あった場所に戻しにいった。流石マイコ。俺よりもメイコの扱いを分かってる。
「それじゃ、うちはこれで~」
会釈する俺を避けるように、キリちゃんのお母さんが会釈して足早に立ち去る。キリちゃんは少しだけ足を止めてマイコを呼び寄せて、小声でマイコに何か耳打ちした。
「それじゃ、マイコちゃんまた明日ね!」
「キリちゃんも、また明日~!」
元気に走って戻っていくキリちゃんに、マイコも元気に返事を返す。
「今のって?」
「あなたの取引先の、永井(ながい)さんのところの奥さんとお嬢さん」
「あぁ…。マイコと永井さんの子どもって友達だったのか…」
「今一番仲が良い友達みたいよ」
仕事を忘れようとした矢先にこれか…。日常にも仕事を思い出す要素がいっぱいで少し嫌になった。
「ねぇねぇ、お父さん」
「どうした?」
仏頂面にならないように気を付けている俺に、マイコがニヤニヤしながら近寄ってくる。やっぱり大きくなっても子どもは見てるだけで癒される。
「あのね、耳貸して」
「ん?」
「キリちゃんがね、お父さんのこと、若くてかっこいいねって言ってたよ」
「…そっか。でも、褒めても今日はもう何も買わないからなー?」
「えー、ざんねーん!」
嬉しそうなマイコにつられて嬉しくなる。マイコの友達に褒められたことよりも、毎年の自慢の父親でいれたことが嬉しい。
「ほら、早くお買い物済ませてうちも帰るわよー」
「おふろはいろーね」
カートを押して俺とマイコを振り返るマユミに、ふと、幸せだなと思った。まだ小さいメイコと仲良さそうに話しながら歩くマユミと、その後を早歩きで追いつこうとするマイコ。俺の思い描いていた家族は、とっくに俺の手の中にあったらしい。
「おとーさん、はやくー!」