一ではなくて? と嫁が眉をひそめた。しまった、墓穴掘っちまった。
「そう、四ひきだよ。ぼくがケース開けたら、ぜんぶ逃げちゃったんだ。でも、ぼくがもう一回、ぜんぶ捕まえたんだよ」
あぁ! 聡太のバカ正直!
「聡太、あんた勝手にケース開けたの?」
「あ……」
言っちゃダメだということを、言っちゃってから聡太は気づいた。だがもう遅い。
「勝手に開けちゃダメって前に言ったでしょ!! どうしてママにナイショで開けたの? 触りたくて我慢できなくなっちゃったんでしょ!? 四歳なのに約束も守れないの? だったらもう、バッタなんて飼わないから。いますぐ全部逃がすわよ!?」
空気を震わす嫁の怒声……息子が青ざめた。
俺は聡太をよしよししながら、
「おい絵理……なにも、子供相手にそこまで怒らなくても」
「なによ私が悪者なの? 私の苦労も知らないで! パパはいっしょに居たのに、どうしてちゃんと見てないのよ。完全に役立たずじゃないの」
「そこまで言うか!」
お互い怒鳴り気味になり、夫婦げんかが始まりかけたそのとき。
「……ごめんね。ごめんねぇ」
と、幼い聡太が小さな声を震わせた。
俺も絵理も怒気を収めて、息子を見下ろした。
聡太はうつむいたまま、ぽたぽた涙をこぼしている。
「ごめんねぇ。失敗しちゃって、ごめんね。こんどはちゃんと出来るから。もう失敗しないから」
絵理は静かな顔になり、しゃがんで聡太をのぞき込んだ。
「失敗って。そんなにバッタと遊びたかったの?」
ちがうよぅ、と、聡太はべそをかきながらふるふる首を振った。
「ママのかわりに、バッタにキュウリあげようとしたんだ……ママがいつも大変だから……ぼくがかわりに。そしたらママ、らくちんでしょ?」
夫婦そろって、同時に言った。
「「聡太が、お世話を?」」
俺たちは、聡太がバッタで遊ぼうとしていたんだと誤解していた。しかし息子は息子なりに、ママを気遣っていたらしい。まだまだワガママばっかりで手の掛かる幼児だと思っていたのに……いつの間にやら気遣う心を育てていたとは。
「聡太……」
絵理は、聡太をきゅっと抱き寄せた。