ゴミ箱が倒れ、コップのジュースがぶちまけられ、雑誌もカバンもとっ散らかったリビングで。
「……なぜだ。なぜ増えた」
飼育ケースの中の4匹のバッタを睨み、俺は眉間にしわを寄せた。
息子は名探偵よろしく、人差し指を立てて自信満々にこう言った。
「赤ちゃんが産まれたんだね」
「いや。さすがにサイクル早すぎるだろ」
3匹しかいないはずなのに、なぜ4匹も部屋にいたんだ? 俺が首をひねっていると。
かちゃり。
突如玄関で鍵の音。
「――ただいま」
まずい。
嫁が帰ってきた。
散らかりきったこのリビングと、なぜか増えてる我が家のバッタ。嫁にどう説明すればいい?
「あ! ママ、おかえりっ」
嫁がリビングに入ってきた瞬間、聡太は満面の笑みで嫁に飛びついた。なんて愛くるしい聡太。だが嫁は案の定、
「は!? なにこの部屋。なんでこんなに散らかってるの?」
息子の可愛さより部屋のカオスさに驚いていた。
嫁が「説明しろ」と言わんばかりの鋭い目線で俺を突き刺してくる。
「ああ、絵理おかえり……あのさ、部屋の中になぜか1匹バッタがいたんだよ。野放しにしておくのもどうかと思って、聡太といっしょに捕まえてたんだ。ほら」
そう言って、俺は4匹入った飼育ケースを指さした。
1匹捕まえる前に3匹逃がしてしまったことは、嫁にはナイショだ。
「…………バッタ?」
嫁が微妙な顔をした。いらだっているようでもあり、気まずそうでもあり、なにやら目線がさまよっている。
「……たかがバッタ一匹のことで、こんなに派手に荒らしたの?」
まずい、嫁の声が低い。
「せっかく聡太が捕まえてくれたんだから、そんな怖い顔するなよ絵理」
「散らかった部屋、誰が片づけると思ってんの」
「俺もやるよ」
「パパの片づけなんて右から左にちょっと物が動くだけでしょ」
ひどい。
「めんどくさいわね……バッタなんて、増えても減ってもどうでもいいわよ。わたしの仕事増やさないでよ。パパが一緒にいたのになんで役に立たないの?」
かちん。と来た。
「そんな言い方ねえだろ。俺だっておまえの手間を減らしてやろうと思って、触りたくもないバッタ、頑張って捕まえたんだぞ四匹も」
「四?」