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『テントウムシの物語』さとうつとむ


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ぼくはペットボトルのお茶を飲みながら、公園の周辺にそそり立つビル群を見ていた。
「信じられないことが起こったの」
 うれしそうに話す。
「宝くじにでも当たったのか?」
「なるほど。確率的にはそれに近いことかもね」
なかなか本題にふれないので、ぼくは少しイライラした。どうせたいした話しではないのだろうと、彼女のことを無視していた。
「驚かないでね」
お茶をひと口、ゴクリと飲むと、千夏は笑みを浮かべた。「なんと、私、妊娠しているみたいなの」
「え?」
 驚いて、千夏を見る。彼女は冷静だった。
「昨日、病院に行ってきたの。そしたら、妊娠十二週だって。今年の秋に出産予定よ」
「……」
 ぼくがキョトンとしていると、千夏は自分のバッグから小さな冊子を取り出した。
「これが証拠」
 母子健康手帳だった。時代劇『水戸黄門』で助さん格さんが悪者に印籠を突きつけるように、千夏がぼくの目の前に手帳を差し出した。受け取ると、表紙に千夏の名前が書いてあった。
「俺、信じられないよ。なんで今頃、できるんだ?」
 何年も不妊治療にチャレンジして子供ができなかったのに、治療をやめてから一年足らずで自然妊娠するなんて。不妊治療をやめた途端に、そのストレスから解放されて妊娠したという例をなにかで聞いたことがあるが、ぼくたちはそれに該当するようだ。
「タイミングが良かったのね、きっと」
「今までの俺たちの苦労はなんだったんだろう」
「――あれこれ考えるのはよしましょう。こうして無事に妊娠できたんだから」
 千夏は、正面で遊んでいる子供たちをまったく気にしていない。自分に子供が生まれる可能性ができたので、劣等感が消えたからだろう。
「理由を挙げるとしたら――これは医学的な話ではないけれど、テントウムシが幸運をもたらしてくれたのかな」
「テントウムシ?」
 僕は首をかしげた。急に何を言い出すんだ。子供の誕生とテントウムシ――どういうつながりがあるというんだ。
「あなたには黙っていたんだけど、芦田さんと初めて会った日の翌日だったかな。幸ちゃんが、芦田さんの飼っていたテントウムシを数匹、私にプレゼントしてくれたの」
「幸が?」
 なぜ、テントウムシを? 
「彼女曰く、テントウムシは幸運を呼ぶ虫なんですって。あなたは知ってた?」
「知らないよ」
「ヨーロッパでは、てんとう虫に関するさまざまな言い伝えがあるんだって。例えばスイスでは、テントウムシが体に止まると夫婦に赤ちゃんが授かる前兆だと言われているらしいの。それで幸ちゃんが、私に子供が授かるようにとのおまじないのつもりで、私にテントウムシをくれたというわけ」

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