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『テントウムシの物語』さとうつとむ


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幸は、ぼくたちが子供を授からずに苦労していることを知っている。妹として心配してくれていたのだろう。そして、兄姉よりも先に子供が生まれることに、後ろめたさを感じていたに違いない。
それにしても、幸にそんな気配りができるなんて。テントウムシのおかげがどうかはとにかく、千夏のことを案じてくれた幸には、夫として感謝しなければいけない。
「こんど幸に会ったときに、俺からお礼を言っておくよ」
「よろしくね」
 ぼくはベンチから立ち上がると、正面に建つ、幸が入院している病院を見た。つい最近まで子供だと思っていた幸が、ぼくの知らないうちに大人に成長していた。いつの間にか母親になってしまった。もし両親が生きていれば、幸の成長と孫の誕生をたいそう喜んだことだろう。両親に幸の子供の顔を見せてやりたかった。そして僕の子供も――。両親の顔を思い出し、急に涙があふれ出てきた。
「あれ、あなた、泣いてる……」
 千夏がベンチに座ったまま、不思議そうにぼくを見上げている。
「豊さんが泣いているところ、初めて見たわ」
「俺だって泣くことがあるんだよ――ただのうれし涙だ」
本当は悲しい涙なのに、ぼくは本心を隠した。右手で涙を拭く。
「それは私が妊娠したことに対して?」
「……」
 両親を思い出して泣いたなんて、口が裂けても言えない。でも、涙の理由が、千夏が妊娠したことだと言ってもあながちうそではない。だって、やっとぼくも父親になれる、長年の夢がかなうのだから。
 腕時計を見ると、もうお昼の十二時に近かった。
「よし、千夏。お祝いだ。今日の昼メシ、豪勢に行くぞ!」
「駅の北口に、おいしいスパゲッティ屋さんがあるらしいの。私のために連れてってくれる?」
「OK!」
 ぼくは千夏の手を取り、引っ張るようにして力強く歩いた。彼女が妊婦だということをすっかり忘れて――。

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