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『テントウムシの物語』さとうつとむ


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 千夏は子供ができないことを悩んでいる。幸の妊娠の話を聞いて、千夏はぼく以上に、祝福したい気持ちと釈然としない気持ちが入り混じった、複雑な心境を抱いているに違いない。
ぼくのスマホに幸からメールが入った。
『次の土曜日、芦田さんが来るよ。決定!』
そう書いてあった。土曜日は五日後だ。できるだけ早くとお願いしたものの、ちょっと急かなと思った。それを千夏に報告すると、彼女は戸惑っているような表情を見せた。
「芦田さんって、私たちより年上でしょ? 初対面のとき、どういう話し方をすればよいのかしら」
「普通に敬語を使えばいいんじゃないのか。まあ、義理の姉だからって威張り散らすのだけはやめろよ」
 わけのわからない冗談を言う。そんな余裕がぼくにはあったようだ。
「こんなときに冗談なんか言わないでよ、もう!」
千夏は、苦笑いしてぼくの腕をポンとたたいた。「あなたにすべて任せるわ。あなたの妹のことだもの」
 任されても困る。ぼくだって、正直、どう接してよいのかわからないのだから……。

「芦田剛志と申します。よろしくお願いします」
 幸の彼氏は丁重に頭を下げた。横に座っている幸が心配そうに彼を見つめる。
テーブルを挟んで僕の向かいに座るその男性は、背が低く痩せていた。前髪を丁寧にそろえた坊ちゃん刈りに黒縁のメガネを掛けていて、ちょっとオタクっぽい風貌だ。先日、幸に見せてもらった写真とは印象がまるで違った。紺色の高級そうなスーツをまとい、テントウムシの小さな刺しゅうがついた青いネクタイを締めている。このネクタイのイラスト、どこかで見た気がすると思っていたら、先日、幸が着ていたTシャツのテントウムシと同じだ。
「私は幸の兄の梅本豊、隣は私の妻の千夏です。こちらこそよろしくお願いします」
ありきたりだが、初対面なので丁寧にあいさつを交わす。
ぼくの自宅の近くにある日本料理店の個室。おいしい料理を食べながら話をしようと、急きょ、開催場所を自宅からこの店に変えたのだ。
 妹の将来の結婚相手と会うのに、何を着ればよいのかがわからなかったぼくは、グレーの上下スーツに深緑色のネクタイ。千夏はOL時代に着ていたベージュのジャケットとスカート。とりあえず正装であればいいだろうという結論だ。
「本日は幸さんとの結婚をお許しいただきたく、お伺いしました。幸さんと結婚させてください」
 芦田さんから、正式に結婚の申し出があった。幸の意思で決めた結婚に反対する理由はない。ぼくは快く申し出を承諾した。
続いて今後の予定を話し合う。式と披露宴は行わずに、来年一月、幸の二十二歳の誕生日に婚姻届を提出すること。その日から、東京都内にある芦田さんの実家で一緒に住むこと。出産場所は実家の近くにある総合病院を考えていること――。そのほとんどが芦田さんからの提案だったが、ぼくとしては異論がないので受け入れた。
本題が終わると、あとは四人で雑談タイム。ぼくは、出身大学や趣味など、芦田さんのプライベートをいろいろと聞いた。上から目線な話し方がちょっと気になるが、丁寧な言葉遣いには感心する。理路整然とした話術に、彼の頭の良さを感じた。話を交わすうちに、彼の人となりが次第にわかってきた気がする。真面目な好青年という印象だし、義弟として、まずは合格といったところか。

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