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『この日、僕は『家族』をした。』雨宿ひろゆき


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「不器用な話だな」
「だからこそ、話し合わないといけないのかもしれませんよ。特に年頃の子とは」
 反抗期。重たい三文字だ。しかし、自分にも確かにそういう時期があった。現状をそう捉えると、自分の愛娘がちゃんと育ってくれている証左でもあるのかもしれない。
 仕事を終えて帰宅すると、洗口液が使い切られていた。いくらなんでも減る量が早すぎる。空になったボトルをつまみ上げて首を傾げていると、父が後ろから声を掛けてきた。
「なあ、それなんだ? すごく良いな。口の中がさっぱりする」
 犯人はお前か。
「歯医者さんに教えてもらったんだよ。一応聞いておくけれど、飲んだりしていないよな?」
「何を馬鹿なことを言っているんだ、飲む訳がないだろうが。……口の医者なあ。もうかれこれ十年以上は行ってないし、暇つぶしに行ってみるかね」
 にかりと笑う父は前歯が欠けていた。残っている他の歯もぐらついているらしい。そこまで病状が進んでいるようだと、洗口液だけでは対応しきれないだろう。賢明な判断である。
 そんなこんなで、彩香とは部下のアドバイス通りに会話を増やしていくことにした。行ってきますから始まって、おかえり、ただいまを交わす。食事中にたわいの無い雑談をする。それだけで家族との繋がりに触れられている気がした。空いた胸にパズルのピースが埋まっていくような感覚。こんな当たり前の一言一言が、愛おしくて仕方が無い。一週間経った今では、誘った訳でも無いのにリビングのソファで隣に座って、一緒にテレビを見るようにもなった。妻の雅子も、ソファの後ろにある食卓の椅子に座ってそれを眺めていてくれている。談笑するとまではいかなくても、元の雰囲気を取り戻しつつあった。
 いいや、まだだ。
 まだ解決されていない問題が残っている。
 彩香の帰りが遅いことだ。部活をやっているとはいえ、なんの連絡も無しに二十二時を過ぎないと帰って来ないというのは、親として容認しうるはずも無い。
 今夜も僕らは食後にリビングでテレビを眺めていた。父は部屋に籠もって本を読み始めてしまうけれども、残りの三人にとってはお決まりになりつつある流れだった。
 今なら尋ねても良いのではなかろうか。思わず拳に力が入る。テレビの内容なんか、これっぽっちも頭に入ってこない。クイズ番組がCMに入ったところで、僕は声を掛けることにした。
「どうして最近は帰りが遅いんだ? 二十二時過ぎとか、そんな時間まで部活をやっている訳じゃないんだろう」
「別に」
「別にって、お前のことが心配なんだよ。親が子供の心配をすることが、そんなに変なことか?」
「いいじゃん別に、お父さんには関係ないでしょ。これは私の問題なんだから、放っておいてよ面倒くさいなあ」
 距離を縮めるはずが、壁を張られてしまった。
 それが、嫌に僕の心を逆撫でた。

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