富雄が、食事を終えてお茶を飲みながら、テレビの天気予報を見ている。
私は、ほとんど減っていない納豆を見て「あれ~航。今日は、納豆食べなかったんだ」
富雄は、納豆が嫌いだから、うちでは、私と、航しか納豆を食べない。
「そうだな、今日は食べなかったな」と富雄は、天気予報の『お帰りの遅くなる方は、傘を忘れずに』との女性アナウンサーのコメントに気を取られている。
気にするでもない様子の富雄に「航、今日、なんか、おかしいわぁ~」と言うと、
まだ、パジャマ姿の優香がリビングに入って来て「航が、どうしたの?」
優香に「航がね…」と今朝の航の様子を私が、伝えると、
優香が、手でぬか漬けのきゅうりを摘み「航。彼女ができたらしいよ」
私と富雄さんが同時に大声で「え~!航に彼女!?」
「うん」と言い、さらにぬか漬けのきゅうりを食べる優香。
「ちょ、ちょっと優香。それ本当なの?航に彼女って!え~―!?。」
富雄は「おっと、時間だ。優香、その話、パパにもちゃんと教えてくれよな。
今晩、遅くなるから、ラインしてくれてもいいぞ」と言い、慌てて出て行く。
優香の話によると、航と同級生で同じ高校に行った女子の先輩が、昨日、優香の部活に遊びに来て、航が同じ学年のしかも、学校一番の美少女と付き合っていると噂になっていると教えてくれたらしい。
あの航に彼女が、しかも、学校一番の美少女と!ありえない!頭の中がパニックになり、「だって、わ、わ、わ――。~×▽〇~、」と自分でも、何をどう言っていいか分からず意味不明のゼスチャーをしていると。
「あの、もやしのイケテナイ男子の航にね。――美少女ともやし?」と鼻で笑う優香に。
「ちょっと、優香。そんな言い方ないでしょ。そりゃね。航は、見た目は、イケテナイ男子かもしれないけど、性格は、優しくて、とってもいい奴なのよ」
「知ってるし」と優香。
「え!?」
「私も、航は、いい奴って思っているよ」
「そうでしょ!ママにとっては。航も優香も世界一、ううん宇宙一の可愛い~宝物なんだから」
「はい、はい。~あ~親バカが始まった」としらけた様子で洗面所へと行く。
私も、優香の後に続いて洗面所に行き「ねぇ~。そのモンダミンこぼした?」
鏡越しに優香が「私が?」
「そう。ずいぶん減ってるからさ」
「航が使っているからでしょ」
「航が?え~そうなの?」
「彼女ができたから、気にしてんじゃないの」と歯磨きをしながら優香が答える。
そうか。だから、今朝も、好物の納豆を食べなかったんだと合点がいった。
航に彼女――。
私は、嬉しいのか、悲しいのか、自分でもよくわからない複雑な気持ちになり、じっと、モンダミンを見つめた。
そして、私は、優香を学校に送り出し、洗面所で簡単なメークを済ませ、自宅から自転車で10分の所にある大型スーパー店へと向かった。