「おばあさん、千果が帰ってきたよ」
「いいものがあるんだよ! 早く、こっちに来て!」
「何だい、朝から元気だねえ」
ひいばあちゃんはよろよろと部屋から出てくる。また落ち込んでいたのだろうか、何だか顔色が良くないように見える。
「ね、外に来てよ。ちょっとだけだから」
「はいはい、わかったよ」
千果の声に、外へ出る。
「どうしたんだい――あら」
すると、目の前に現れたものに、ひいばあちゃんは驚いて声を上げた。
「あらあら、これは……」
「じゃーん、すごい?」
「どうだい?」
お父さんがそれをトランクから降ろしてくる。ひいばあちゃんは両手を広げて嬉しそうに笑顔を見せる千果に気付かないように、それを慈しむように撫でた。
「これはこれは……」
「ミカンの木だよ! こっちはグミで、こっちは……ザクロと、ビワと……みーんな実がなるの。ひいばあちゃんのお家に、昔、あったんでしょ」
そこに並んでいたのは、たくさんの苗木だった。それぞれが大きな鉢の中で、まばゆいほど緑の葉を広げている。
ひいばあちゃんはそのひとつひとつを確かめるようにじっと見ると、ふとつぶやいた。
「そうだけど、でも植える場所が……」
「それなんだけど、ばあさんの部屋から見えるベランダに置こうかなって」
お父さんが言う。
「土に植えなくても、鉢でも世話をすれば育つらしいし、実もちゃんとなるってよ」
「そう、実もなるの……」
その言葉を聞いて、ひいばあちゃんの頬に赤みが差した。その目はきらきらと輝いて、いまはまだ小さな苗木たちを嬉しそうに眺めている。
「実がなるのはいいわねえ。いまから育てて、いつ実がなるのかしら……まだ小さいから、今年は無理だろうねえ」
「そうだなあ」
お父さんはもっともらしく腕組みをしてみせた。
「今年は無理でも、来年……うん、再来年くらいには、実が付くんじゃないか?」
「再来年、ねえ……」
ひいばあちゃんは、一瞬、困ったような顔をした。千果はどきどきして次の言葉を待つ。
この小さな苗木たちが実をつけるまでには、何年かの時間がかかるだろう。それに、きちんと世話をしなければ実は望めない。
ひいばあちゃんに、この先何年も長生きをしてほしい。死にたいだなんて言わないで、この苗木が実をつけるまで、千果がもっともっと大きくなるまで。千果はそう願ったのだ。
「再来年くらいなら、私もまだ生きてるかねえ……」
しばらく苗木を眺めた後、ぼそりとつぶやくようにひいばあちゃんが言う。
やった! 千果とお父さんとお母さんは、みんなで顔を見合わせた。千果の小さな思いつきは、成功したのだ。
「そうだよ、せっかく買ってきたんだから、実がなるまで生きないと」