「でも、それなのにどうしてひいばあちゃんは死んじゃいたいって言うんだろう」
「そうね、ときどきすごく落ち込んじゃうもんね。いろいろ忘れちゃうから、辛くなっちゃうんだと思うけど」
「辛いの?」
「うん。まあいままで一人暮らしして、生活も変わったしね。何か楽しみでも見つけてくれるといいんだけど」
「楽しみってなに?」
「いままではずっとお裁縫をやってたみたいだけど、いまは目が悪くてできないし、買い物は好きだけど、一日に何回も連れてってあげられないしねえ……」
お母さんはそう言うと、深い呼吸を何回かして、眠り始めてしまった。
「お母さん……寝ちゃった?」
千果はため息をついて、大人しく布団に潜り込んだ。目を閉じる。そして、考えた。
どうしたら、ひいばあちゃんの楽しみが見つかるんだろう――。
千果は次の日学校で、その答えを思いついた。そして、家に帰ると、ひいばあちゃんに聞こえないように、内緒話でお母さんに打ち明けた。
「それはいい考えね」
お母さんはにっこりした。
「じゃ、早速お父さんに頼みましょう」
「うん! あ、ひいばあちゃんには内緒だよ」
「わかってるわよ」
その日、千果はその秘密が口から飛び出してしまわないようにしながら、ひいばあちゃんがどこかに隠したおやつを探し、いつものように二人で食べた。
「私が物を忘れてどっかやっちゃっても、この子がすぐ見つけてくれるよ。だから安心だね」
おやつを探すくらいのことでも、ひいばあちゃんはやっぱり千果を褒めてくれて、千果は大得意だった。
その次の日曜日。
朝から、ひいばあちゃんには内緒でお父さんと出かけた千果は、うきうきしながら車に乗っていた。
買い物は済んだ。ひいばあちゃん、喜んでくれるといいなあ、千果はトランクに乗せた包みを振り返りながら、運転をするお父さんの顔を見上げた。
「ねえ、喜んでくれるかな」
「そりゃ、喜ぶさ、きっと」
お父さんは楽しそうに言った。
「それに、千果からのプレゼントなんだ。喜ばないはずがないよ」
「そうかなあ」
車は消防用水の横を抜け、そうするうちに家の屋根が見えてくる。
「お母さん、買ってきたよ!」
玄関で千果が叫ぶと、お母さんはひいばあちゃんを呼んだ。