やっと褒めてもらえたというのに、どうしてか、千果は全然嬉しくなかった。
「ねえ、お母さん。ひいばあちゃん、もう死にたいんだって」
ひいばあちゃんの部屋の灯りが消えた後、布団の中で千果はそっとお母さんに話しかけた。
「お父さんとお母さんに迷惑がかかるからなんだって。そう言ってた」
「そう」
常夜灯の明かりの中で、お母さんは困ったような顔をした。けれど、すぐに笑ったような顔をして、千果の頭を撫でた。
「でも、大丈夫よ。ひいばあちゃん、まだ死なないから。だってひいばあちゃん、体がすごく丈夫なのよ。みんなで風邪を引いたときだって、一人だけ何ともなかったでしょ。お母さんもあやかりたいもんだわ」
「あやかるって、なに?」
「うーん、ひいばあちゃんみたいに丈夫な体になりたいなってこと」
お母さんは眠そうにあくびをする。千果は半分体を起こした。
「じゃあね、お父さんとお母さんは、ひいばあちゃんが迷惑って思ってる?」
そう聞くと、お母さんは口は笑ったまま、眉をしかめた。
「やあね、この子は。……そりゃ、いろいろあるけど、別に迷惑じゃないわよ。年を取ったら、みんな助けが必要になるの。仕方ないのよ」
「助けって?」
「うーん」
お母さんは目を閉じたまま言った。
「例えば、ひいばあちゃんは一人じゃお買い物に行けないけど、毎日お買い物に行きたいから、連れて行ってあげないとならないでしょ。それでも夕方には、朝お買い物に行ったことを忘れちゃって、今日はお買い物に行ってないって落ち込んじゃって大変でしょ。ごはんを食べてないって言うこともあるし、お父さんの名前がわからなくなっちゃったり、一人暮らししてたお家に帰りたいって言うこともあるし――まあ、そういうときに、お母さんたちがひいばあちゃんに教えてあげないといけないのね。お買い物はまた明日行こうね、とか、ごはんはもうすぐできますよ、とか、お父さんはひいばあちゃんの孫ですよ、とかね」
「わたしも、わたしも教えてあげてるよ」
「そうなの?」
千果が息せき切って言うと、お母さんは笑った。
「どんなこと?」
「あのね、ひいばあちゃんはいつも、消防用水をお池なのかなって言うの。お魚がいたらいいなって。でも、あれは消防用水だよって、わたし、教えてあげるのよ」
「そう」
お母さんは目を閉じたまま、答えた。
「じゃあ、千果もひいばあちゃんのこと、助けてあげてるのね」
「うん」
千果は嬉しくなってうなずいて――それから、ぱたん、と枕の上に倒れ込んだ。