「あー! 大地いいところに帰って来た!」
「何事……?」
「これどう思う?」
おふくろはクローゼットに眠っていたらしい一張羅のスカートを腰に当てている。
正直、どう、と言われても困るのだが。
「どう、とは」
「上の服と合ってますかってこと」
「合ってないこともない」
「うわ、微妙な回答。どっちなのよ」
ブツブツ言いながら、ハンガーに掛けたままのそれを腕を突き出して眺める。
ふわり、クローゼットの匂いが鼻孔をくすぐった。長らくそこにあったのだろうことを思わせる防虫剤の匂い――ばあちゃんの、匂い。
「……あのさ」
「ん?」
「ばあちゃん、大丈夫かな」
島の干物をテーブルに並べながら、他にどう言っていいか分からずそう口にした。
「……どうだった?」
なにか察している様子の返答に、胸がざわつく。
「母さんね、もう何度もこっちで一緒に住もうって言ってるんだけど、駄目なんだよね」
「なんで?」
「じいちゃん。補聴器嫌がるからテレビの音量すごいでしょ。ご近所トラブルになるの分かりきってる。ばあちゃんは来たがってるんだけどね」
「来たがってるならじいちゃん説得すりゃいいじゃん」
「ううん、ホントの問題はきっとそこじゃないのよ」
「……どういうこと?」
スカートから外されたクリーニングのタグが、無造作にテーブルの上に転がる。そして干物を手に取ったおふくろは、ばあちゃんそっくりな顔で眉を下げた。
「……ずっと住んできた島を出てこっちに来て、そう遠くない将来に葬式になるでしょ。そこにお別れをしに来るのは私たち家族だけ」
「……」
はっとした。
「友達も親戚も高齢で、お葬式に来たくても来られない人は必ずいる。今までお世話になったご近所さんだってここにはいない。それって、どうなんだろうね……」
――ああ、と思う。