なんとなくこっちの言葉が混じって、自分でもイントネーションがよく分からなくなる。ばあちゃんも俺の言葉のせいか、いつもよりやや標準語に近い発音が少しずつ出てきた。
ばあちゃんは、もち米をボウルに開けながら得意げに笑う。
「そがん言うても、千波ちゃんのご飯が一番じゃなかと?」
「もちろん嫁さんのメシは美味い。ばあちゃんのメシも美味い。俺は幸せだね」
「お母さんのご飯が抜けたねぇ」
「ハハ、まあ想像にお任せするよ」
おふくろのメシは……まあ、嫌いじゃない。
あまり料理が好きではないらしく、誰かに食べてもらうことに喜びを感じないタイプだ。普通に美味いとは思うが、感動の共有にやや難がある。
「今日は何しようか――」
俺がそう言いかけたところで――
隣の和室からのテレビの大音量に度肝を抜かれた。まるでマイクでも通しているのかと思うほど、盛大に室内に響き渡る。
「!? ばあちゃん、これじいちゃんの部屋!?」
「耳栓ば着けんね。そこに置いてるよ」
「はっ!?」
そこはテレビのボリュームをどうにかする方が先ではないのか。
「……食べ終わったなら、散歩行こうか。天気もいいし孫とお散歩なんていいじゃない?」
「う、うん……」
「お赤飯の用意の間にね。ウフフ」
茶目っ気たっぷりに微笑んで、ばあちゃんはもち米をザルに上げた。
ばあちゃんと一緒に家を出ると、磯の空気がふわっと頬を撫でる。やたらと高い空をトンビが飛んでいた。
「大地は炊き立ての赤飯も好きじゃったろ?」
正直、今のこの腹の具合ではちっとも食べたいとは思えないのだが。
(ああ、でもばあちゃんの赤飯か……)
好きだ。炊飯器じゃなく、蒸し器で作られるそれが。
「――いや、今は赤飯よりテレビだって。さっきの何」
思い出したままそう訊ねると、ばあちゃんは困ったように眉を下げた。
「いつものことだからねぇ」
「じいちゃん、補聴器嫌がるんだって?」
「うーん……怖かとよ。良かと。幸いお隣さんまでは音が届かんくらい離れてるけん」
「いやいや、あれじゃばあちゃん、じいちゃんと一緒にテレビなんか――」
「そがんなことはなかよ。ちゃんと一緒に観てます」
……耳栓してまで?
あんなの、とてもじゃないが同じ部屋になんていられない。
「……俺が説得しようか? 補聴器。孫の言葉なら聞き入れてくれるかも」
「ううん。せんでよか。ありがとうね」
ばあちゃんは俺の腕を掌でトントンと撫でて、のんびりと空を仰いだ。