「でも根こそぎ抜かないと、またすぐに伸びてしまうよ、雑草は」
「あ……でも、引っ張っても根もとでぶちぶち切れちゃって」
「道具を使わなきゃ。お父さんの道具があるだろう?」
そうか。美咲は裏の物置に行き、扉を開いた。前回置きっ放しにしたゴミ袋を見ないようにしながら、草むしりの道具らしきものを探してみる。
シャベルを使うのかな?
美咲が大きなシャベルを手に表に戻ると、吉村が愉快そうに笑った。
「それじゃむずかしいんじゃないかな。ちょっと待ってなさい」
吉村はそういうと門のほうにまわり、「お邪魔します」と声をかけながら美咲のいる庭に入ってきた。そのまま物置へ向かったので、美咲はあわててあとを追いかけた。
「あ、ちょっと、その……」
吉村は気にせず物置の扉を開けた。
「す、すみません、ゴミを入れっぱなしで。朝、収集の時間までになかなか来られないから」美咲は急いで弁解した。
「そうだよね。じゃ、うちが出しておくよ」吉村はそういってゴミ袋を手に取った。
「え、いえ、さすがにそれは」美咲は制止しようとしたが、吉村は気にするふうもなく、ゴミ袋を庭のほうに運ぶと、垣根越しに自分の庭に放り投げた。
「いいよ、気にしなくて。明日ちょうど収集の日だから」
「す、すみません」美咲はぺこりと頭を下げた。
吉村は物置に戻ると、床から小さな鎌のような道具を2つ拾い上げた。「これでいい」といって庭に戻っていく。美咲はおとなしくあとをついていった。
庭に戻ると、吉村は片方の鎌を美咲に手わたし、もう片方を手にしゃがみこんだ。
「こうやるんだ」そういって鎌の先を雑草の根もとあたりに突き刺し、ぐいっと引っ張ってみせた。すると、雑草が根こそぎ引っこ抜かれた。
「なるほど」美咲もしゃがみこみ、真似してみた。少し力は必要だったが、雑草を根こそぎ引っこ抜くのは意外と気持ちのいいものだった。爽快、とでもいおうか。しばらく夢中で作業していたため、吉村がそのまま草むしりにつき合ってくれていることに気がまわらなかった。
「あっ! すみません!」美咲ははたと気づき、立ち上がった。
「もう大丈夫です。あとはひとりでできますから。ありがとうございました」
吉村がにこやかに笑った。「いや、いいよ。どうせ暇だからね、わたしは」吉村は作業の手を止めずにそういった。
「すみません……」美咲はなんとなく落ち着かない気分ではあったが、あまり拒むのも悪いような気がして、厚意に甘えることにした。
小一時間ほどたったころには、庭の雑草はほぼ姿を消していた。汗びっしょりになったが、さすがに大きな達成感を味わうことができた。美咲はせめてものお礼にと、冷蔵庫から冷えたビールを持ってきて吉村に手わたした。
「ほんとうにありがとうございました」