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『父の庭』おおのあきこ


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 家は、生活が中断されたままの状態だった。冷蔵庫には、スーパーで買ってきたとおぼしき総菜の食べ残しがぎゅうぎゅうに詰めこまれている。
「なにこれ?」
 いくつかパッケージを取りだしてみた。どれも賞味期限を大幅に過ぎている。
「うわっ、やだっ!」
 奥のほうにカビだらけのパッケージが見えた。美咲はいったん冷蔵庫のドアをバタンと閉じたあと、深々とため息をついた。

 一時間後、袋にまとめたゴミを裏の物置まで運んだついでに、美咲は足を止めて庭をながめてみた。庭の全体像はなんとなく記憶にあるものの、それまで特に意識したことがなかったので、なにが植えられているのかよく知らなかった。
 広さは20坪ほどだろうか。むきだしの地面から、雑草とおぼしきものがちょこちょこと顔を出している。お世辞にもおしゃれな庭とはいえないが、そこそこ手入れは行き届いているようだ。庭を縁取る背の高い木々と、その足もとを隠すように植えられた低木たち。美咲は木を一本ずつたしかめていった。
 これは……椿? で、こっちは、幹の感じからして、たぶん百日紅。これはたしかツツジ。それから……これは……なに?
 美咲は白い花をいくつか咲かせた低木に近づいた。ふわりといい香りが鼻孔をくすぐった。そういえばこの時期、庭からいつもいい香りが漂ってきていたような気が……でも、なんの木かはわからなかった。
 庭の中央には、ごつごつとした幹の木がでんと構えていた。見上げると、びっしりと繁る葉のあいだに、小さな青い実がたくさんなっている。
「これは梅だよね」とひとりごちた。
 そういえば昔は、梅の収穫が両親の一大イベントだったような気がする。そのあとお母さんが梅干しを漬けていたっけ。お母さんが亡くなってからは……どうしているのだろう?
 美咲は足もとの雑草を見下ろした。たいした量ではない。これくらいなら、簡単に処理できそうだった。
 雨も上がったし、たまには親孝行してやるか。
 そう思い、しゃがみこんで草をむしりはじめた。しかし簡単に抜けると思いきや、草は意外にしぶとかった。引っ張っても、ぶちっと根元から切れてばかりいる。
 数分後、手首のあたりになんとなくかゆみを感じた。手首だけでなく、足首のあたりにも。首のあたりにも。手の甲にも……。
 え? 見れば、ぽつりと赤い斑点ができている。そして、かゆい。どんどんかゆみが増していく。手首も、足首も、首も、手の甲も……。
「えーっ? もしかして、蚊? 刺された?」思わず大声を出して立ち上がり、家の中に駆け戻った。蚊に刺されることなど、もう何年も経験していなかった。
「かい~っ!」

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