「お父さんおはよう。すごい良いお天気になったね」
「ほんとびっくりだよ。こんな晴れるとはさすがに思ってなかったからなあ」
「台風はどうなったの?」
「まだ遠くでうろうろしてるみたいだね。だけど次第に近づいてくるってさ。どうだろう、昼からは曇るかもしれないな」
もうすでに由美も由利恵も起きて準備をしていた。しばらくして、まだ眠そうな目を手でこすりながら、由希奈が下におりてきた。
「おはよう。晴れたね」
「おはよう。ほんとう良く晴れて良かったわ。きっとみんなの普段の心がけが良かったのよ」と、祖母が由希奈に応えた。
七時を少しまわった頃、五人は家の玄関を出た。祐二がハンドルを握るミニバンで、最初の目的地である、盆踊りが有名な、清流流るる山あいの町へと向かった。有料道路を使えば断然早く到着するが、そこをあえて下道で、のんびり車を走らせた。珍しく早起きした仁は、車のシートを倒し、すぐに車中寝てしまった。
途中目を覚ました仁の目に山が飛びこんだ。
「わあ、山だ! 山だよ」と、仁は山に喜んだ。
目を下に向けると、そこには川が流れ、
「わあ、川だ! 川だよ」と今度は、目に映る川にも喜んだ。
あともうひと息で車は最初の目的地に着こうとしている。寝ているあいだに着いてしまおうとは、まるでどこでもドアみたようなもんだ、と祐二は喜ぶ仁をルームミラーごしに見て思った。
適当なパーキングを見つけ駐車した。依然空は良く晴れている。
この町の工房で作られる食品サンプルがいつの頃からか割りかし有名になっていた。その食品サンプル作りの体験を事前に予約してあった。しかし予約の時間まではまだ大分と時間があった。ので、ぶらぶらと町を散策した。暑かった。五人、影を探し歩いた。おちこちでせせらぎを耳にした。狭い用水のなか鯉が泳いでいた。古い町並みを奥にいくと、すうっと風が吹き、しばし暑さを忘れ涼んだ。
「かき氷が食べたい」仁が言った。
「わたしも食べたい」由希奈が続けた。
「じゃあそこでいただきましょうか」と由美が、通りにあるかき氷の店に目線をむけた。
ふわふわに削られたかき氷はシロップも爽やかで、五人の渇いた喉を程よくうるおした。
橋の下、流れる川の岸におりた。おりるとき、仁が先頭、次に祐二、そして由美、由希奈は祖母の手をとり二人してゆっくりおりた。
川の流れに腰まで浸かって鮎の友釣りをしている人がいる。手前で水遊びをしている家族がいる。鳥が、魚を捕まえるのか、飛んできたと思ったら、ザブンと川に潜った。
「じゅうぶん気をつけるんだぞ」