一学期が終り子供たちは夏休みにはいった。梅雨も明けたと言うのにジメジメとして、どうもスッキリとしない天気が続いた。由希奈は夏休みにも部活があり、やはり相変わらずスッキリしない顔をして、ぶつぶつ文句を言いながら、朝から部活に行った。仁は母親に、早く宿題を終わらせてしまいなさいと尻を叩かれ、遊びたいばかりの気持ちをこらえ、どうにか毎日鉛筆の芯を少しづつ減らした。家には由利恵がいるので、子供たちを任せ、由美はふだん通りパートに出た。祐二は毎日暑い暑いとこぼしながら朝仕事に向かい、夜家に帰った。家族ささいなことで喧嘩をしては、いつの間にか仲直りした。
家族は盆休みを使って山の方面へ旅行を計画していた。山の中にあるペンションを一泊予約した。久しぶりに家族全員そろっての旅行である。家族皆それぞれ、この旅行を楽しみにしていた。が、盆近くになって台風が日本列島に接近しつつあった。
「この台風、ちょうど旅行の日あたりに直撃する可能性があるみたいだな」
朝の情報番組で、台風の進路予想を見ていた祐二が、誰に言うでなく呟いた。夫の呟きを耳にして由美が言う。
「えっ、やだ本当に?」と彼女もテレビの画面を見る。
「わっ、本当! いやねえ、でもまだ分からないわね。なんとか避けてほしいわね」
「うん… そうだよな」と夫は妻のほうへ振り向いて、少し不安げに言った。
夕飯のとき仁が父親に問う。
「ねえお父さん、台風きたら旅行どうなるの?」
「そうだなあ、下手すりゃ中止ってことになるかもな」
「そんな、やだなあ。ぼく楽しみにしてたのに… 」
「きっと大丈夫よ。仁ちゃん良い子にしてたらお天道様見てて、行けるようにしてくれるわよ」しょんぼりする孫を見て、由利恵が笑顔でなぐさめるように言った。すると由希奈が、それを否定するかのように、ひとり言う。
「だけど、もし行けなくなっても… まあ、天気のことじゃ仕方ないわよね」
「そうねえ…… 」由美が曖昧に返した。
と皆、なんやかんや言いながら、台風の進路に気を揉むのであった。
台風はゆっくりと進み、なかなか判然とした進路がつかめずにいた。はっきりしないぶん、より皆をやきもきさせた。
次第に台風の進路が定まってきた。なんとか初日は大丈夫そうである。次の日は影響を受けるかも知れないが、旅行を中止するほどでもない、と祐二は判断した。
旅行当日朝、雲ひとつない見事なまでの蒼穹が広がっている。
普段起こさねば起きぬ仁が、珍しく早起きして、カーテンを開け空に目をやった。
「わあ! すごい良いお天気だ」
仁は部屋を飛び出し、階段をかけおりた。
居間へはいると父親が、まだパジャマ姿で、テーブルの上カメラを触っていた。
「おはよう仁。早いな」