「なによってなによ! お母さんのガミガミがわたしに移ってこうなったんです! ほんと孫のまえでは優しい顔ばっかして、仁にもお母さんの怒った鬼のような怖い顔見せてあげたいもんよ」
「鬼ですって!……
と、実の母娘、あまり気を使わずにものを言い合い、そのうち喧嘩となっていった。ところで、もうおわかりだろうが祐二は入婿である。
「お母さん、おばあちゃん、もうやめて! 僕が悪いんだよ。僕二階で宿題してくるから喧嘩しないで」
母親と祖母との喧嘩の板挟みに遣る瀬なさを募らせた仁の口から堪らず言葉が出た。その言葉を耳に二人は顔を見合わせ、ハッと我に返り、互い苦笑いをして見せた。
「ごめんね仁ちゃん心配させて」と、祖母が孫に謝る。
「お母さんごめんなさい、わたしちょっと言い過ぎたかな。仁、上は暑いからクーラーの効いたここで宿題すればいいわ」と、由美は由利恵に謝ってから息子に言った。母親の言葉を素直に受けとめた仁は、居間のテーブルに本とノートを広げ鉛筆を握った。そうして時折わからないところを母親や祖母に尋ね、なんとか宿題を終わらせた。
日が暮れかけた頃、由希奈が部活を終え高校から帰宅した。帰ってくるなりたいそう不機嫌である。
「ああ疲れたぁ… 吹奏楽部なんてはいるんじゃなかった! ほんっと高田のやつメッチャムカツク!」
中学の時に運動部できつくしぼられこりごりした由希奈は、小さな時分よりピアノを習っており、音楽に比較的親しみのあったのを理由に、高校では吹奏楽部に入部した。音を楽しむと書いて字の通り、きっとみな和気あいあい楽しくやれるだろうと想像した。体験入部ではわりかし想像通りに楽しくやれた。が、実際に入部してみると違った。とくに顧問の高田先生が熱血で大変厳しかった。平気で部員たちに罵詈雑言を浴びせかけた。部員同志もどこか冷ややかで気を許せなかった。それに希望したサックスにはなれずトロンボーンを吹かされた。由希奈は毎日の部活が苦痛となった。やめようかとも考えたが、どこかやめにくい空気に、そこから足を踏み出せず、家に帰って文句を言いつつも続けた。
「あなた、毎日のように帰ってきては部活の愚痴ばかり吐いて、そんなに嫌ならやめればいいでしょ、いや、もうやめちゃいなさいよ!」
娘の不機嫌にウンザリな由美が言った。それを聞いて由希奈はさらに機嫌を悪くした。
「やめたくてもやめれないからしょうがないでしょ!」
「そんな、やめれないことはないでしょ! なんならお母さんが学校に行って、代わりにやめるって言ってあげるわよ」
「モウッ! そんなこと絶対しないで! 恥ずかしい」
「恥ずかしいことなんてないわよ全然」
「恥ずかしいって言ったら恥ずかしいの! もういいっ! お母さんにはなんにも話さない」そう言って由希奈は、足音を大きくたてながら自分の部屋へ行った。部屋へはいるのに扉をバタンと激しく閉めた。