「そうじゃなくて、どうしてうちの段ボールってわかったかってことよ」
「宛名は剥がしてるし、外にはだーれもおらんのにな」
さち子が付け足す。
「でしょう?」
さち子と登紀子が気味悪そうに言うのを気にもしない鈍い和夫。
「誰かがたまたま見てたんやろう」
登紀子はそれならええけどと首を振り「……監視されてるみたい」と呟く。
「この辺、静かやし、もしかしたらみんな宇宙人とちゃう?」
さち子の想像にみつ子が銃を撃つマネをして「ババババン! 地球人をやっつけてやる」とふざける。和夫だけが、受けて大笑いするが、登紀子とさち子は冷めた顔。
こりゃ外したかなと、気づいた和夫が黙って竹輪を口に押し込む。次はと箸を動かすが、同じようなメニューばかりで食べたいものが特にない。この頃はせっかくのお惣菜たちも飽きられて余り気味だった。
放課後のウサギ小屋。相変わらずホウキを持っているだけのさち子とカツオ。
「それで、どうなん?」
「だーれも外におらんのにな、誰が出したゴミかわかるらしいねん」
「こわっ」
「そやろ。出窓見えへんし、バカにされてるんとちゃうかな」
「そんなわけないやろ」
もうこれはカツオの常套句。
「それにな、パパとママの仲もビミョーねん」
「え?」
「パパが一緒にテレビでも見よか言うても、ママ、やることあるしええわって」
「そうなんや」
「きっと背中向けて寝とるで。夫婦の危機ってやつかな」
「お前、意外にすごいこと、さらっと言うな……」
思わす尊敬してしまうウブなカツオ。
いつものように、さち子とみつ子がリビングで遊んでいる。
今日も遅くなった登紀子が小走りに家路を急ぐ。クタクタの体に最後の坂道は辛い。それでも玄関の前で大きく深呼吸し笑顔を作った。
「ただいまー。ごめんねー、遅くなってー」
登紀子は慣れた手つきでパックの輪ゴムを外し、お惣菜をテーブルに並べ始める。
「もーから揚げ、あきた」
みつ子がふくれっ面。
「ママ、みっちゃんに鍵あけさせんの、危ないんとちゃう? この頃物騒やし」
さち子も、チラシのお皿を並べながら、お姉ちゃんぶってみた。
「そうやね」と、適当に返事しながら、惣菜を並べる手を止めない登紀子。
「みつ子、ママの肉じゃが食べたい」
「ホンマや。時間のたった油物はお肌の敵やで、なぁ、みっちゃん」
「今日はサラダもあるんよ」
登紀子は聞き流してかまわずお惣菜を並べていく。他の選択肢はないようだ。
「みつ子、卵ご飯でいい」
「私もお茶漬けの方がええわ」
さち子とみつ子の小さな反乱。