「みっちゃんの好きなから揚げと炊き込みご飯。ゼリーもあるよ」
「おいしそー」
登紀子は次々と買ってきた惣菜をテーブルに並べ始める。皿にいれようともしない母に少し驚くさち子。
「このまま食べるん?」
「ええやん、お皿使たら洗わなあかんし。ママもさち子と一緒でこの頃眠いんよ。そうや、広告の裏、とり皿にしよか」
登紀子はいいこと思いついたとばかりにチラシを裏にしてテーブルに並べる。
(冷えたから揚げて、今時コンビニのんでもあったかいのに……。おまけにチラシがお皿て……)
子供ながらあきれて言葉が出ないさち子。
いつもの放課後のウサギ小屋。ホウキを持っているのは形だけで、ただ喋っているさち子とカツオ。
「それで、どうなん、憧れの出窓やない家は」
「当り前やけどな、とにかく家ばっかやねん。店なんてどこにもないし、だーれも外で遊んでへん……。公園にも人おらんで。砂場には網がしてあってな、野良猫も近寄らん」
「気持ち悪いな」
「そやろ。近所の人、みんな引きこもりやろか?」
「そんなわけないやん」
「それにな、晩ごはん、冷たいねん」
「へ?」
「ママ、パートでな。作る間あらへんからおかず買ってきはるねん」
「そうなんや……」
「チンぐらいしたらええのに」
「みっちゃん、熱いのあかんしやろ」
「……そうかもしれんけど」
さち子はお皿がチラシとまではどうしても言えなかった。
「ママ、前は美魔女目指して、寝る前のクチュクチュも頑張ってはったんやけど、それもしたり、せなんだり」
「クチュクチュ?」
「寝る前のうがいや」
「あー、うがいか」
「そう、砂時計で20秒」
「お前もするんか?」
「当り前やん、いつ初キッスするかもしれんのに、やっとかな」
「え……」
カツオは急にドギマギして、慌てて掃除を始めた。
ある日、さち子が学校から帰ってくると、捨てたはずの段ボールの束がポン太の鼻先に置いてあった。
「なんやろ、これ」とポン太を見るが、「俺が知るか!」と不機嫌な様子。
その日は和夫も早めに帰宅し、夕食はひさしぶりに4人揃って賑やかだった。相変わらず、食卓に並ぶのは買ってきたお惣菜だったが和夫の手前、皿に入れてあるだけマシだった。酢豚に天ぷら、八宝菜。ビール片手に、そんなこと気にもせず竹輪の三色揚げをつまんで「お、コレいけるな」と上機嫌な和夫。
「でね、パパに朝頼んだ段ボールが駐車場に置いてあるんよ」
「また、なんでや」
「この辺は燃えるゴミの日と、段ボールを出す日は違ったみたいで……」
「じゃぁ、しょうがないな」