リビングでは和夫が満足した顔で部屋を見渡していた。大きな買い物をしたんだ、無理もない。ローンはいっぱいいっぱいの35年。それでも、静かな環境で家族一緒に暮らせる喜びは大きいようだ。閑静な住宅街は和夫の夢だった。
入ってきたさち子は隣家との間にひとつだけ出窓があるのを見つける。
(あるやん!)
心の中で叫ぶが、なぜか素直に喜べない。
新しい壁、ニュータイプのシステムキッチン、無理して買った大きなダイニングテーブル。高揚する気持ちを抑えきれない和夫と登紀子は互いを褒め合い始めた。日常のことは一旦横に置いたまま。
「やっとやな」
「ほんとに」
「マイホームかぁ」
「パパのおかげね」
「いや、ママのおかげやで」
そこへ、おかまいなしにさち子が口を挟む。
「なぁ、なんでこの出窓、見えへんとこについてるん?」
「え?」
なんのことかと驚く登紀子。
「この出窓、外から見えへん」
「ああ、こっちが南側だからじゃないか」
和夫は何も気にしていない。
「ふーん……」
それでもさち子は腑に落ちない。
(外から見えへん出窓に意味あるんかな……?)
「そんなことより、2階の自分の部屋見てきたら」
「そやな、見てくるわ。みっちゃん、行こ」
「うん」
みつ子を連れて階段を上がっていくさち子。
肩を寄せ合い、再び「褒め合い」を続ける和夫と登紀子。
「がんばったね、パパ」
「ママが節約してくれたしな。これからも頼むで」
「まかせといて、それに今度はパート、がんばるし」
「ずっと家にいたのに、大丈夫か?」
「家族のためよ。さぁ大船に乗っちゃって」
登紀子ははしゃぎながら調子よく宣言した。
放課後、まったく、いつもと同じようにウサギ小屋で掃除しているさち子とカツオ。
「校区の端から端に引っ越したわけやな」
「まぁ、そういうことやね」
「で、どうなん?」