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『チーム・プレイ』中杉誠志


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「あれ、おまえ知らなかったかな。パパの同級生で、元プロ野球選手。古屋っていうんだけど」
「知らなーい」
 無理もなかった。家でずっと野球の話を避けていた河村は、高校時代のチームメイトがプロに進んだという話もしたことがない。それに古屋のいたチームは、リクの贔屓チームとはリーグが違う上に、彼自身、解雇されるまでのここ五年はケガに泣かされて二軍と三軍を行ったり来たりしていた。そのため、話題にのぼる機会がなかった。
 しかし、河村は昔から古屋を尊敬していた。高校時代、古屋はチームでも一番練習熱心だった。他県からの野球留学組で、寮生活だったが、夜遅くまでバットを振ったり、タオルを使ったピッチング練習をしていた。寮は田畑の真ん中に建っていて、夏場は蚊が大量発生する。そのため古屋は、アースの蚊取り線香を体の周りに並べて自主練習に励んでいた。だから、いつも蚊取り線香くさかった。毎晩煙にいぶされていたことから、いつしかあだ名が燻製になったのだった。
 それだけ練習すればプロになるのは当然という気がしていたし、実際古屋は当然のようにプロになった。そんな友人は、河村の誇りだった。
 ところが紀村は、河村とはべつのスタンスで燻製を語った。
「でも、みじめなもんだよな」
「なにが」
「だってよ、ガキの頃から野球一本でやってきて、高卒でプロ入りした人間なんてさ、野球ができなくなったら、ただの高卒だぜ。しかも、社会人経験なしときた。それで、三十代半ばでいきなり営業の仕事始めてよ、下手な作り笑顔浮かべて、高校生のバイトにまでヘコヘコ頭下げてんだぜ。見てらんねえよ」
「おい、子供の夢を壊すようなこというなよ」
 河村が強い口調でたしなめたが、紀村は悪びれずにいう。
「でも、現実だぜ。――どうだ、坊や。これでも君は、プロ野球選手目指すか?」
「よせよ、紀村」
 という父親の声を遮るように、リクが下からいった。
「うん、目指すよ」
「どうして」
 と尋ねた紀村は、あざけるような顔でリクを見下ろしている。その顔を真っ正面から見返して、リクはきっぱりといった。
「だって、努力して失敗した人を笑うような、いやな大人にはなりたくないから」
 紀村の表情が固まった。河村は、少し驚いた。リクがここまで強い意思を持っているとは思わなかった。
 紀村は無言で背を向けて、バックヤードへ引っ込んでいった。
 そこでリクはちょっと心配そうな顔になり、河村を見上げた。
「僕、パパの友達のこと、怒らせちゃった?」
「どうだかな……」
 紀村の消えた方角を見ていると、やがて出てきた。手には、ボールと金属バットを持っている。リクは河村の陰に隠れた。紀村は河村の前で立ち止まると、その背中に隠れたリクに話しかけた。
「よくいった、坊や。これをやろう」

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