そういって、手にしたボールとバットを差し出した。ボールのほうには、見慣れないサインが入っている。
「これ、誰のサイン?」
「いまいった、燻製のだよ。がんばるのはいいが、ケガには気をつけろよ。それから、いまの気持ちを絶対に忘れるんじゃないぞ」
紀村は、演劇サークルじこみの巧みな笑みを浮かべた。河村はリクの頭を撫でながらいう。
「よかったな、リク。いいもんもらったな」
「うん」
そうして、親子は店を出ようと踵を返した。と、そこで紀村の手が河村の肩を掴む。
「おまえは待て。バット代、七千五百三十八円。茶番とボールの代金は負けてやるから」
「チッ……」
河村は舌打ちして、ジーンズの後ろポケットから長財布を引き抜いた。