「またねー!」
「ばいばーい」
美結ちゃんも帰ろうとすると、振り返ってぼくを見た。
「良太くん。帰らないの?」
「帰るよ。おばあちゃん待ってるから」
「お母さんは?」
ぼくは答えようとすると、後ろから「美結」と呼ぶ声が聞こえた。
「あ、お母さんだ。じゃ、また遊ぼうね」
美結ちゃんは走って行き、お母さんと手をつないで帰って行った。
幸せそうな二人の後ろ姿を、ずっと眺めていた。
「ごちそうさま」
「あんれ、良太。もう終わりかい?」
残した夕食を台所まで運んだ時、廊下に置いてある花火を見つけた。
「これ何?」
「ああ、倉庫で見つけたんだあ。ずうっと前に買って、まだ腐ってねえと思うんだけっちょも、後で婆ちゃんとやっか?」
「やる!」
ぼくは待ちきれず花火を持って外に出た。おばあちゃんはお皿を洗うと、おじいちゃんの写真が飾ってある仏壇からライターを取り、バケツを持って外に出てきてくれた。「ほれ、虫いっから線香置いとけ」線香とは、蚊取り線香のことだ。
ぼくは袋から花火を出して地面に並べた。
「これにしようっと」
おばあちゃんは、ぼくが持っている花火の先に火をつけた。
シュウウウ……
「あれ……?」
じっと待っていたが、火がつかない。
「あんれえ? おがしいなあ……違うのにするべ」
別の花火も試したが、火はつかなかった。
「ダメだ。これ古ぐて、しけってるんだべな。楽しみにしでたのに、ごめんなあ良太」
ぼくは肩を落とし、地面にそっと花火を置いた。
「智子。まだ、こっぢさ来れねえのかい?」
仕事の帰り道、また母から電話が来た。
「え、そっちに? まだ行けないよ、明日も仕事だもん。何かあったの?」
「いやあ……別に、大したあれじゃねんだけっちょも……」
歯切れの悪い母の言葉が気になり、「どうしたの?」と聞いた。
「……なんだか無理してるよお、あの子。昨日もな、『子供じゃねえ』、『大丈夫だ』って言ったりよ。今日も花火できなくて、大人みてえに我慢したんだわ。なんだか婆ちゃん、悲しくて見てらんねえわ」
「ちょっと、良太に代わってくれる?」