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『おはよう』長尾優作


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 家には誰もいなかった。畑に行ってみると、腰の曲がった後ろ姿が見えた。
「おばあちゃん!」
 周りをキョロキョロ見てから、おばあちゃんは振り返った。
「あんれえ……良太か?」
 手を振って、おばあちゃんに駆け寄った。
「どしたんだ、良太。一人で来たんけ?」
「来ちゃった!」
「パパとママは、どしたんだあ?」
「あのね、ぼく一人で電車と新幹線に乗って来たんだよ! すごい?」
「そりゃ、すんげえなあ。んじゃ、疲れたっぺ? どれ、うちさ入って休まっし。いやあ、太陽さ、あづい、あづい……」
 おばあちゃんはトマトをタオルで包み、「どっこらしょっ」と言って家に向かった。
「ねえ、おばあちゃん。ぼくが来てビックリした?」
「いやあ、びっくらこいたわ」
 へへ、とぼくは笑った。おばあちゃんもシワシワの顔で、にっこり笑い、ぼくの頭を優しくなでてくれた。

「もしもし、お母さん?」
「ああ、智子か? いやあ、ビックリしたど。良太が一人でうぢさ来だんだわ」
 私は早めに会社を出て、帰宅途中に実家へ電話をかけた。案の定、良太は一人で母の家に行ったのだ。驚いたことに無事、実家に到着したという。息子は一人で近くまで買物に行ったことはあるが、まさか遠出をするなんて思わなかった。
しかし、どうやって電車に? まさか、夫のICカードにかなりの金額が?
 思いついたら居ても立っても居られない所は誰に似たのかしら。それにしても無事で良かった。
 私は、ほっと胸をなでおろした。
「良太は?」
「ご飯食ったら寝ぢまったわ。よっぽど疲れたんだわな」
「あの、お母さん。数日そっちで良太のこと預かってくれない? 私、今週はどうしても抜けられない仕事があって迎えに行けないのよ」
「なんだ、来れねえのか。いいべ、夏休みなんだから好きなだけいさせろお」
「私かパパの仕事終わったら、車で迎えに行くから」
 言い終わると電話を切り、溜息をついた。
 気付けば夕陽は沈み、雨雲が徐々に空を覆い尽くしていった。

「ただいま」も言わず、靴を脱いだ。
 都内にあるマンションの一室。家には誰もいない。夫はまた職場に戻ったようだ。
 突然、電話が鳴った。きっと夫からだ。
「良太、大丈夫だったか? 福島着いたのか?」
「うん、心配ないって。お母さんと電話したから」
「しかし、驚いたな。初めてじゃないか、あいつが一人で遠出したの。まあ、良太も男の子だから冒険してみたかったんだろうな」

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