「おばあちゃん家」
ぼくは手紙を見せた。
「おめえ、照子ばっぱん家行くんか?」
「え、知ってるの?」
「時々、うちの父ちゃんの畑、手伝ってくれんだ。俺も帰るから一緒に乗ってぐか?」
「あれで行くの?」
「んだ。その方が早ええべ」
お兄ちゃんは自転車を持ってきた。
「お兄ちゃん」
「なんだ?」
「……誘拐しないでね」
ズコッ、と漫画みたいによろけて、お兄ちゃんは自転車を倒した。
「ば、馬鹿! なんで、おめえなんか誘拐すんだっ!」
「だって、『ぶっそう』だから知らない人にはついて行くなって先生が言ってた」
「俺は照子ばっぱのこと知ってるって言ったっぺ! 家が近所なんだ! ほれ見ろ、俺の方がケガしちまったべ」
「ツバをつければ治るって言ってたよ」
「うるせえな、先生の言うことなんか聞くもんじゃねえ」
「違うよ。それは、お父さんが言ったんだよ」
「どっちでもいいから早く乗れっ!」
お兄ちゃんはプンプンしながら自転車を起こした。
「二人乗りはダメなんだよ」
「すぐだから気にすんな。足、痛てえんだっぺ?」
お兄ちゃんはヘルメットをぼくにかぶせてくれた。ぼくは自転車の後ろに乗った。
「しっかりつかまってろ」
ギュッとお兄ちゃんの腰につかまると、自転車は勢いよく走り始めた。
「行っくぞー」
「うわー、うわわ!」
自転車は道路を通り過ぎて坂道を下り、田んぼに囲まれた農道を走り去った。
「あ、あぶないよー!」
お兄ちゃんは笑っていた。初めて自転車で二人乗りをした。涼しい風がぼくの顔に当たり、気持ちよかった。そのまま走って行くと、見たことある家を見つけた。
「おばあちゃんの家だ!」
家の前で自転車が止まり、ぼくは降りてヘルメットを返した。
「ありがとう」
「男だったら、転んでも一人で立ち上がれよ」
「うん!」
お兄ちゃんは「じゃあな」と手を振り、帰って行った。
ぼくは、おばあちゃんの家に向かった。
「おばあちゃん、来たよ!」