翌朝、娘に例の条件を突きつけた。といっても、夫のスマホから娘のスマホに例のプログラミング風(?)の文章を送信してもらっただけである。さすがに学校で勉強しているだけあって、一秒で理解した娘は、
「なんでこのifの横のスペース、全角なの?」
という私には意味不明な指摘をしただけで、条件自体には文句をつけなかった。
試用期間は三ヶ月とした。そのあいだ(夫はwhileとわざわざ英語を使ったが)、一日でも金魚にエサをやらなかったり、月に一回の水槽の掃除を怠けるようなら、猫は飼わない。
その日から、娘の孤独な戦いが始まった……!
というほど大げさなことはまったくなく、普通にそれまで私がやっていた作業を娘が引き継いだだけだった。エサやり、水槽の掃除、そしてこれはべつに条件には入れなかったが、金魚が跳ねたときにフローリングの床に散った水を拭くのも、娘は進んでやった。その献身的ともいうべき態度は、なんとまあ、よくできた娘さんだなぁ……と思わず私が親バカを発揮してしまうほどだった。
そして、三ヶ月後。
我が家に猫がやってきた。
「どうせ飼うなら、血統書つきのにしなさいよ」
と私は薦めたが、娘は、
「血統書つきなんて値段が高いだけだし、病気に弱そうだし、全然合理的じゃない」
と父親譲りの論理的判断で一蹴し、ペットの里親を探している団体から、アメリカンショートヘアと三毛猫のミックスらしい一匹の猫を引き取った。もしかしたら、最初から捨て猫ちゃんの里親になるために猫を飼いたいといい出したのかもしれない。リン子は父親に似て、やさしい子なのだ。これも親バカ。
猫には、C太(シータ)という名前がついた。キャットのCかと思ったら、C言語のCらしい。娘の感性は、たびたび謎である。
ただ、いざ猫を飼い始めると、問題がひとつ発生した。
それまで喧嘩などしたこともなかった夫と娘が、たびたび喧嘩をするようになったのだ。
といっても、基本的に娘がわーわーいうのを、夫が受け流すだけなのだが。
あ、今日も始まった。
「もう、パパ、C太にエサやらないでっていったじゃん!」
「すみません。C太くんが物欲しそうな顔をしてすり寄ってきたので、ひどくお腹を空かせているのかと思い、つい」
「つい、じゃないー!」