私は焦ってハナ爺の顔を両手でまさぐり、
「ハナ爺!ハナ爺!ハナ爺!」
と何度も呼んだ。
ハナ爺は、ずっと動かず、目を閉じたままだった。
そんな。ハナ爺が、ハナ爺が…。
4年前に母が亡くなり、その1年後、後を追うように父が亡くなった。
ハナ爺は、私が就職して家を出てから母が寂しさを紛らわす為に飼った犬だ。
父が亡くなってからハナ爺はうちが引き取り、晴人が世話をしていた。
両親が元気な頃、たまに実家に帰ると、しっぽをちぎれんばかりに振って寄ってきた。その顔が、本当に笑っているように見えて可愛かった。
晴人が産まれてから実家に帰る事も増え、晴人もハナ爺をとても可愛がっていた。
よく3人で散歩もした。
私と、晴人と、…あの人と。
…ハナ爺までいなくなっちゃうの?
晴人、本当に、2人っきりになっちゃったね…。
もう何も考えられなくなっていた。
鼻の奥がツンとして、涙が溢れてしまっていた。
もう訳がわからなくて、とにかく辛くて、喉の奥が苦しい。
私は子供みたいに大きな声をあげてわんわん泣いてしまった。
そんな私を見てか、晴人も大きな声をあげて泣きはじめた。
私は自分の気持ちでいっぱいで、晴人を気遣ってやれなかった。
やっぱり私は駄目な母親だ。
つけたばかりのはずの蚊取り線香の煙は、いつの間にか消えていた。
晴人はハナ爺が亡くなってから、明らかに元気がなくなっていた。