銃口を向けられたことで逆に状況が分かったのか、キョロキロとしていたヒーローは落ち着きを取り戻していた。
この後、発砲をきっかけにして戦闘に突入し、怪我をしない程度にヒーローから殴られ撤退するというのが今回の作戦だった。電気の力を利用した弾丸は着弾すると大きな破裂音が周囲に響く。その音で人を集めて、ヒーローの活動をアピールする。それは我々戦闘員によくある仕事の一つだった。
壁の上に立った私は改めて全体を見渡した。全体を見ていて一つの違和感に気がついた。それは、口の悪い先輩の持っている銃の砲身に、大きく目立つ白い汚れが付いていたことだった。
どうしてそれがここに?
私は一瞬目を疑った。しかし、考えている暇はない。合図があってからでは遅いのだ。私は構えを解き、壁から飛び降りると走り始めた。
間に合うか、間に合え!
「撃て」
先輩の号令が聞こえた。
私が目的の場所へ辿り着いた瞬間、幾重にも重なった銃声が響き渡り、私の体は後ろに吹き飛んだ。凄まじい勢いに首が揺れ、頭が外れてしまうかと思った。心臓の鼓動がやたら大きくてうるさい。しばらくの間、自分が実弾で撃たれということに気が付かなかった。
撃たれたときの衝撃で私の覆面は捲れてしまっていた。真後ろに立っていたヒーローが怯えるような手つきでそれを直そうとした。しかし、不意にその手を空中で停止させた。
「と、父さん」
ヒーローの覆面の下から、一度聴いたら忘れようがない、実の息子の声が聞こえた。
「気分はどうですか?」
病院で養生していると妻が見舞いにやってきてくれた。憑き物が落ちたようなすっきりした顔をしている。
「悪くない」
ベッドに手をついて上半身を起こそうとすると、妻がそれを支えてくれた。
「もう無茶なことはやめてくださいね」
「ああ、そうする」
私は動かなくなった自分の両足を見つめた。
息子がヒーローだと気づいたのは、初めに自動販売機で助けられたときだった。覆面の下から聞こえる声、それは、聞き間違えようのない息子のものだった。息子が学校の授業に出られなかったのも、夜な夜な家から忍び出ていたのも、ヒーロー活動に勤しむ為だった。