逆に、息子は助けた相手が私だったとは気づいていないようだった。喧嘩のせいで私の顔が腫れていたせいだ。長年連れ添った妻ですら気づかないくらい変貌していたので、これは仕方のないことなのかもしれない。
ヒーローの父親が秘密結社で戦闘員をしているなんておかしな話だ、絶対にあってはならない。しかし、先輩の話を聞いてみると戦闘員は悪いことをしていないということが分かった。むしろ、話から判断するにヒーローを支える影の存在のように思えた。だから、私は戦闘員になった。息子の力になれると信じ。
入社してから良い評価を得るのはそれほど難しいことではなかった。当たり前だ。私はヒーローと一緒に生活しているのだから、他の戦闘員よりヒーローの情報を集める機会に恵まれていた。
秘密結社で働いていて一つ気になることがあった。それは、本物の武器が倉庫に保管されていたことだ。戦闘員の職務上そういうものが必要なのは分かっていた。しかし、何かの間違いで息子に使われる可能性もある。そこで、私はあらかじめ危険なものに白い目印をつけておいた。こうしておけば少なくとも私が間違えることはないし、誰かが持ち出したとしても使用を未然に防ぐことが出来ると思ったからだ。
私はそのまま息子がヒーローを引退するまで見守り続けるつもりだった。けれど、状況が変わった。口の悪い先輩が息子に危害を加えようとしたからだ。倉庫での態度が怪しいと思っていたけれど、まさか、街中で実弾を発砲するなんて思ってもいなかった。
彼の放った銃弾は息子の前に立ちふさがった私の腰椎付近の神経をかすめ、私は下半身が不自由になった。
「あの子、ヒーローを辞めましたよ」
「本当か?」
妻には、入院した時私が秘密結社に入っていたことと息子がヒーローをしていたことを打ち明けた。
「一体どうして?」
「やりたいことが出来たそうです」
妻は嬉しそうに微笑んでいた。息子としっかり話し合うことが出来たのだろう。こんなに柔らかい雰囲気の妻を見るのは久しぶりだった。
「お医者様になって、貴方のことを治したいそうです。だから、ちゃんと勉強しなくちゃいけない、ヒーローなんかやっている時間がない、だそうですよ」
「……そうか」
私は、動かなくなった両足を擦った。
私の息子は今までヒーローとして、世の為人の為働いてきた。それが今では、私の為に勉強してくれているという。私は一刻でも早く、再び家族の為に働けるようになりたいと思った。息子にこの傷を治してもらえたら、国から、今度は秘密を作らなくて済む仕事を紹介してもらおう。