先輩は急に、なんだこりゃと声をあげた。先輩の持っている銃の砲身には、かなり大きな白い汚れが付いていた。
「くそ、イラつくぜ」
先輩は荒い手つきで白い汚れをこすり始めた。
「とにかく、俺が言いてえのは不平等過ぎるってことだ。俺たちももうちょっといいおもいが出来てもいいはずだ」
先輩はまるで不満をぶつけるかのように執拗に砲身の汚れをこすっていた。私は先輩の話を聞いていてなんとなく不安を覚えた。
「お前、今日はもう帰っていいぜ。後は俺がやっとくから」
注意深く先輩を見ているとそう指示された。
「でも」
「お前のことは頼りにしてる。だから今日は帰ってゆっくり休め」
先輩の言動には有無を言わせないものがあった。私は気になることがあったが、言われた通り帰ることにした。
ヒーローと戦闘員の対峙する場所と言えば、昔から崖のある採石場が相庭と決まっていた。しかし、現在は違う。あのような場所で戦闘を行えば、ヒーローや戦闘員が思わぬ大怪我を負うことが多いからだ。ヒーローの出現率と待ち伏せのしやすさを考慮した結果、私が待ち伏せ場所として選んだのは、家の近くにある自動販売機だった。それはつまり、私がヒーローに助けてもらった場所だ。
配置されるとき、私は壁の裏を志願した。そこは狙撃する際壁の上に立つ必要があるので、いざという時一番全体を把握しやすい場所だったからだ。
全員の配置が終わったあと、通行人が何人か通ったけれど戦闘員の存在に気づく人間はいなかった。それだけ我々の潜伏が上手だったということだろう、準備は全て整っていた。
「来ました」
覆面の裏側に設置されている小型の無線機から丁寧な態度の先輩の声が聞こえた。どうやら私の予想した通り、ヒーローはこの場所に現れたようだ。しばらくして無線機から指令が聞こえた。
「今です」
私は壁に手をかけて腕に力をいれると、勢いよく自分の体を持ち上げた。するとそれまで壁一色だった視界が開けて、戦場を一望することが出来た。自動販売機の裏、電柱の影、街路樹の茂み、様々な場所から黒色の戦闘員たちが一気に姿を現している。その中心で、赤い戦闘服を着たヒーローが浮足立って辺りを見渡していた。
「構えて」
無線機から次の指示が聞こえた。私は両手でしっかりと銃を握り込んで胸の前で構えた。あとは、射撃命令を待つだけだった。