以前、無許可のままヒーローと戦闘をした戦闘員がいたそうだ。彼はヒーローとの戦闘に熱中するあまり周囲への注意を怠り、車に轢かれてしまったという。それ以来、ヒーローと勝手に戦闘することが禁止され、ヒーローと遭遇した際は一方的に負けることが義務付けられた。もちろん、その際はヒーローも手加減してくれるのだそうだ。
「ヒーローの着ているスーツも我々と同じ構造です。ただ、向こうの方がかなり高性能です。防御力も高いですし。でも、打ち所によっては大怪我をしてしまいますので、通常の武器の使用は絶対に控えて下さい」
私は先輩の話を聞きながら、今後戦闘員としてどのように活動していけばいいのか考えた。
秘密結社で働き始めた私は、短い期間で周囲からの評価を上げていった。秘密結社に属している者にとって最も重要なのは、如何に万全の状態でヒーローと戦闘をするかである。我々は要人の誘拐から自動販売機の細工まで多岐にわたる任務を帯びているので、ヒーローと違い予定外の戦闘をすることが許されていない。例えヒーローと遭遇しても、ただ一方的に殴られて終わるだけである。そこで、任務を帯びていない、戦闘許可を得ている状態でヒーローと遭遇することが肝心になってくる。私は独自に調査をした結果、貴重な情報を得ることが出来、入社したばかりにも関わらず、戦闘員の中で一番ヒーローと戦闘する機会に恵まれた。
「大活躍じゃねえか」
倉庫で戦闘の準備をしていると、私を秘密結社へスカウトした口の悪い方の先輩がやってきた。
「運が良いだけです」
明日は私が戦闘場所を選定し、丁寧な態度の先輩が現場で指揮を取り、ヒーローと戦闘をする予定だった。戦闘員十数名でヒーローを取り囲み、一斉に銃で狙撃するのだ。そして、その攻撃を耐えきったヒーローにきっちりと倒してもらう。そこまでが我々の仕事だった。
「ちょっと気になることがあるんだけどよ」
先輩は模擬銃を手にとりながらそう言った。
我々が銃火器を使用するとき、本物の銃はあまり使わない。一般人を脅したり、物を破壊したりするときに使うくらいだ。ほとんどの場合は本物そっくりに作られた特殊な銃を使用する。その銃は着弾の瞬間、弾の先端から弱電流が流れる仕様の特殊な弾丸を発射することが出来るのだ。この弾丸には貫通力がほとんどなく、これも派手な戦闘を演出する為の道具だった。
「なんでしょうか」
人数分の模擬銃を用意しながら私は返事した。
「ヒーローのことムカつかねえ? 台本が用意された戦いで俺たちを一方的にぶん殴ってチヤホヤされる。俺たちは殴られ損の上、世間から嫌われる。こんなのおかしくねえか?」
「そういう仕事ですから」
「物分かりが良いんだな」