先輩の言葉は意外だった。戦闘員とは、もっと化物のような存在だと思っていたからだ。
「あと、この戦闘服には一つ仕組みがあります。ちょっとナイフを貸して下さい」
私はすでに支給されていたナイフを渡した。刃渡りは30センチくらいで、家にある包丁よりも少し長いくらいだ。
「ありがとうございます」
そう言うと突然先輩は私が渡したナイフで切りかかってきた。いきなりのことだったので、私は声を出すことすら出来ず抵抗出来なかった。しかし。
「切れてない?」
切りつけられた部分は無傷で、なにかざらざらしたもので撫でられたという感触だけが残っていた。とても刃物で切られたという感じではない。
「では、次にもっと驚くことをしましょう。さっき渡した戦闘服を広げてください」
私は言われるがまま戦闘服を広げた。すると、先輩はそこにナイフの刃をくっつけた。その瞬間。
ぱぁん!
「うわっ」
突然戦闘服から破裂音と火花がおこった。
「テレビとかで見たことありませんか? 戦闘シーンで、ヒーローが武器で攻撃されたとき、火花や煙が出るのを」
たしかに、ニュースでヒーローの活躍を見る際、戦闘途中、怪人に攻撃されて火花と白煙を発生させながらダメージを受けるヒーローというものを何度か見たことがあった。見慣れていたので違和感を覚えなかったが、冷静に考えてみると、切られたり殴られたりして火花が出るのはおかしい。
「私たちの使用するナイフは特殊で、戦闘用の服と接触すると、火花が上がる仕組みになっているんです」
先輩の説明によると、このナイフは砥がれていないので物を切断したりすることは出来ないが、刃の部分に目には見えない細かい突起がびっしりと並んでいて、その先端から弱い電流が流れているのだという。
そして、先ほど渡された戦闘服。こちらは表面に特殊な加工がされていて、電気抵抗が限りなく低く設定されているらしい。ナイフから流れる電流は微弱なものだが、特殊な戦闘服は電気抵抗が低く、しかも意図的に接触面が狭くなるようにされている。結果、ナイフと戦闘服が触れると狭い面積に電圧がかかり、ショートして火花が上がるようになっているのだそうだ。
「我々の使用する戦闘服は派手な戦闘を演出することが目的です。一般人に負けるわけにはいかないので攻撃力は上がりますが、防御力はそれほど上がりません。下手をしたら大怪我をしてしまいます。だから、我々はヒーローと違い予定外の戦闘が禁じられているのです」