「さっきも言いましたが我々は変則的な公務員なんです。体が資本なので定年退職は一般企業よりも早めですが、その代わり定年後の再就職先は世話してもらえます」
また働くことが出来る。私は無意識に首を縦に振ろうとしていた。
しかし、落ち着いて考えてみた。本当に悪の秘密結社に入社してしまって大丈夫なのだろうか。例えば、私が秘密結社で働くことで家族に迷惑がかかってしまうかもしれない。
「少し、考えさせて下さい」
思い悩んだ結果、私は絞り出すような声でそう告げた。
「もちろんです、よく考えてください。ただ私が思うに、今のあなたにはメリットが多い選択だと思いますよ」
そう言い残すと二人の戦闘員は闇に溶けるようにして帰っていった。
「どなたですか?」
家に帰ると妻からそう言われた。改めて鏡を見てみると、顔全体が腫れ上がり服はボロボロになっていた。長年連れ添った妻が私だと気づかなくても仕方なかった。
「いい年して喧嘩なんて何やっているんですか。貴方がそんな調子だから」
妻の言いたいことは最後まで聞かなくても分かった。私たちの子供は来年大学受験を控えているというのに受験生の自覚がなかった。学校の授業に出席せず先生から連絡が来たり、夜な夜な家から忍び出たりしていた。
「そんなことよりも話したいことがある」
一人で悩んでいても仕方ないと思ったので、私は仕事を解雇されて新しい職場にスカウトされたことを話そうとした。
「そんなこととは何ですか! あの子の将来のことが大事じゃないんですか?」
「違う。そういう意味じゃない」
私は妻に落ち着いて話を聞いてほしいと頼んだ。しかし、こうなってしまうともう遅い。妻は私の話など聞こうとはせず、説得は無駄に終わった。
結局、妻に相談することの出来なかった私は、家族の為になると信じ、秘密結社に入社することにした。
私が秘密結社に入社して驚いたことは、戦闘員は改造手術を受けないということだった。
「我々はただのやられ役です。必要以上に強い必要はありません」
そう言って丁寧な態度の先輩から渡されたのは、戦闘員が全員着用している黒い戦闘服だった。これは特殊な材質で出てきており、着るだけで筋肉や神経を刺激して常人の何倍ものパワーを発揮することが出来るという優れ物だった。
「これを着ていれば一般人に負けることはないでしょう。しかし、過信してはいけません。防御力は普通の服よりも高い程度なので、武器を使われればひとたまりもありません」