驚きのあまり私は戦闘員たちから見える位置に移動していたということを忘れていた。慌てて逃げようとしたが、怪我と酔いのせいで体は動かなかった。
「こいつってさっきの」
「ええ、どうします?」
戦闘員二人は私を見下ろしながら話し始めた。そこには、先ほどの人形のような無機質さはなく、捨て猫を見つけたときの小学生のような戸惑いがあった。
「我々の会話、聞きましたよね?」
なぜか戦闘員は恐る恐るという感じで私に話しかけて来た。
「は、はい」
「やはりですか。どうします?」
「どうしますって言われてもなあ。いっそ正直に言った方が良いんじゃね?」
そう言うと戦闘員たちは、悪の秘密結社について語り始めた。
そもそもどうして秘密結社ができたのか、それはとある政策がきっかけらしい。この国は自然災害やそれに伴う事故が多発していた時期があった。それは未然に防ぐことが難しかったが、対応の遅さのせいで政府は著しく評判を落とした。
たくさんの人間の集合体である政府は意思の統率が難しく、迅速に動ける保証はどこにもない。そこで政府は、分かりやすい悪役を作り国民の怒りを一時的に誤魔化すことにした。
「試してみると意外に効果があったらしいです」
丁寧な態度の戦闘員によると、政府の問題解決能力が向上したわけではなかったが、国民やマスコミから非難されることが減ったという。悪役は、見事不満の矛先を誤魔化すことに成功したのだ。
手応えを感じた政府は本格的に悪役を作るようになり、やがて出来上がったのが悪の秘密結社だった。
「仮想敵で団結力を強めたということですね」
私は戦闘員の話を聞いてそれなりに納得していた。遥か昔、我が国では似たような政策が行われていたことを学生時代に授業で学んでいたし、秘密結社の存在が公になってから政府の支持率が良くなったのも事実だった。そしてなにより、目の前で理知的に説明をする戦闘員が嘘を言っているようには思えなかった。
「一つだけどうしても腑に落ちない点がある」
「なんでしょう」
説明をしてくれた戦闘員は不気味な外見とは裏腹に丁寧な対応をしてくれた。
「今の話が本当だとすれば、戦闘員は政府の指示で動いているということすよね?」
「はい、分かりやすく言えば我々は公務員ですから」
「だとしたら、この国は政府自ら積極的に犯罪活動を行っているということになるのですが?」
「そうなりますね」