雄太君が開けた部屋の中、壁の前には3Dと書いてある大きなテレビ、大小五つのスピーカー。テレビ台の中には、最新型のゲーム機とその他のメーカーのゲーム機が、並んでいた。
テレビと対面している壁際には、美咲の部屋では主役である、机と本棚とベッドがここでは脇役となって追いやられている。
「すごいね、雄太君の部屋」美咲は、窓を開け、下を見た。芝生が広がっている庭には、ブランコと滑り台が雑に置かれていた。隣の家がやけに小さく見えた。外の熱気が部屋に入って来た。美咲は、急いで窓を閉め、「いいな、この部屋」といった。
「こんな部屋なんかいらないよ」雄太君は低くうなって、ゲーム機をセットして、コントローラーを美咲に手渡した。「早く、しよう」
3Dテレビから飛び出る映像に、何度ものけぞり、大小五つのスピーカーから出る音に、何度も振り向いた。その場所にいるような感覚。自分の家でやっている古いゲームが実に幼稚に思えた。
「山本は、慣れてないから勝負にならないな」雄太君が胸を張っていった。「誰も僕に勝てないから面白くもないけど。次はどれにする?」
美咲はテレビの右下の時間を見て、「もう四時よ。まだいいの?」と小首を傾げた。
「誰も帰って来ないから、気にするなよ」
「おかあさんも遅いの?」
「遅いよ。僕が寝るときにも帰っていない」
「食事は?」
「惣菜とか、いろいろ買ってくれている。おかあさんとも、おとうさんとも、一緒に晩ごはんを食べたことは、ほとんどないよ。山本は一緒に食べているの?」
「うん、毎日。雄太君、淋しくないの?」
「慣れたよ」雄太君は遠くを見る目をした。
「そう……」美咲はそれ以上何もいえなかった。
「食べ物の話をしていると、お腹がすいてきたね。何か食べようか。ゲームはちょっと休憩」というと、雄太君は一階へ、さっさと降りていった。美咲も一人で部屋にいるわけにはいかないので、ついていく。
台所の大きな食器棚は、レトルトカレーとラーメンやうどんのりっぱな箱が並んでいた。
「今日はカレーにしよう。好きなのを選んでよ」
「カレーは辛いから苦手なの」
「子供だな、でもこれなら大丈夫だよ。超甘口だから」雄太君は一つを取り出した。
スーパーマーケットに行ったときに、「お店で食べるより高いよね。こんなの買う人いるの?」とおかあさんがよくいっているものだ。
電子レンジの「チ~ン」が、広いリビングダイニングに響いた。雄太君が淋しく、憂鬱そうに一人で大きな食卓に座っている姿が見えた。
「ちょっと食べてみたら」雄太君はお皿にカレーライスを分けてくれた。