おとうさんは七味を大量にかけて、ガソリンを車へ注ぐように、あっという間にたいらげて、「ごちそうさま」もいわず、食卓から離れ、居間のテレビを着け、ゴロンと横になって、丸い背中を食卓に向けた。
美咲の気分はブルー。甘口カレーはお腹の中で辛く感じられた。
美咲は青いアサガオをぼんやり眺めながら、「今夜もブルーかな」とつぶやいた。
後ろから声が聞こえた。「山本、そこで何しているの?」
振り向くと、その雄太君が立っていた。
「あ、雄太君」美咲は急いで、笑顔をつくる。
「今から、うちでゲームしない? 妖怪モンスターのゲームがあるよ。先週、発売されたゲーム機も買ってもらったし」
雄太君は、話題のゲームをいつも真っ先に手に入れる。犬と猫も飼っている。学校の休み時間には、みんなの輪の中心。美咲は輪の外で聞いているだけ。みんながよく話している、雄太君の部屋にも行ってみたい、ゲームにも興味がある、美咲は満面の笑みで大きくうなずく。
「行く」
通学路に二人っきり、顔が熱くなってきた。何か話さないといけない、と思いながらも、何も話せない。それは、中古で買ってもらった古いゲーム機しか持っていない。ペットも飼えない、小さな借家住まいの自分。大きな家に住んでいて、なんでも持っている雄太君へのコンプレックスなのか。その原因というのは、おとうさんの給料が少ないからなの? おとうさんといえば、おじいさんのような丸い背中も気に入らない。
あれこれ考えているうちに、雄太君の家に着いた。雄太君の家は、二階建ての大きな洋館。瓦は濃いオレンジ色、壁は明るい肌色、ステンドグラスがはめられている大きな窓も見える。周辺には人の背丈の石塀をめぐらし、南側の道路に面してはパイプシャッター越しに車三台は停められる大きな駐車場。
雄太君がカバンから鍵を取り出し、大きな玄関扉を開けた。
玄関だけで美咲の部屋ぐらいはある。靴を脱いで、雄太君の後ろから広い廊下を歩き、大きな窓から太陽が、タップリと射し込み、高い天井へ反射している快い空間に出た。暑くないというより、とても涼しい。雄太君によると、24時間の全館空調システムというらしい。美咲は思わず両手を挙げ、背伸びをした。足元ではラグドールがひなたぼっこをしていた。
部屋の角にはペットサークルがあった。雄太君がその扉を開けると、トイ・プードルが美咲に飛びついてきた。
雄太君でなくて私? と思いながらも美咲はすぐに抱き上げた。
「かわいい」
「僕の部屋は二階。早く行こう」雄太君は、美咲がトイ・プードルと遊んでいるのを待ちきれない様子で、階段を上がって行った。
美咲は、トイ・プードルを置いて、後ろからついていく。「アーン、アーン」とトイ・プードルは淋しそうに鳴いていた。
幅が広く、ゆっくりと上がる階段。美咲の家の這って上がるような階段とは全然違う。