と依頼の意思を表示した。
こんなふうに全てが急な展開ではあったけれど、梅ちゃんこと、梅垣広子さんが来てくれて本当に良かった。
特段、この場の雰囲気に溶け込もうとしているふうでもないのに、いつの間にか皆から梅ちゃんと呼ばれるようになっていて、2年と7ヶ月ここにいた前任者が、苗字にさん付けで呼ばれていたのとは実に対照的なことであった。
親しみやすさとはまた別の、そこはかとないひたむきさが梅ちゃんにはあって、それが微笑ましいうえに、通常だったら月締めの時期に合わせて引継ぎがされるところ、梅ちゃんは報告書作成がいきなりの本番となってしまったから、周りの皆がいつもより余計に彼女に気を配ったのだった。
梅ちゃんのパソコンキーを打つ音が長い間止まったら、「どうかした?」と一声掛けてみたり、何かと色々さりげなく……。
その都度の梅ちゃんの困ったような笑顔と「ありがとうございます」の一言で、仕事のやりとりがちょっとだけ活気づいて、立場上、表立って梅ちゃんと呼べない健介も、ついつい梅ちゃんと呼んでしまいそうになって慌てる。
滅多に人を誉めない毒舌な前川でさえも、
「今度入った梅垣さんって、何かこう、拝みたくなる顔していますよね」
と風変わりな表現で、残業中の健介を苦笑いさせたが、それはそれで的を射ていなくもないのであった。
それから数日後、「北村さんにお話したい事があります」で始まった梅ちゃんの打ち明け話を聞くこととなったのは、七階食堂、窓側の席。
人なつっこく見えて実は人見知りの梅ちゃんが、「ここいいですか?」と健介の向かいに座ったのだった。
健介のトレーには山菜うどんで、梅ちゃんのトレーには鯖の味噌煮定食。
「仕事、どう?」ではなく、「ここの社食、結構いけるでしょう?」みたいな話題を最初にあげたのは、健介の深読みしすぎの表れ。
入って間もない時期に不安がないわけないだろう――とまずは真っ先に考えてしまうし、気の利いたことも言えない。
もどかしい気持ちで麺をすすったところで、梅ちゃんが、
「私の履歴紹介で家業手伝いってありましたけど、実は私……現役の海女です」
と話の本題を切り出した。
「現役のあまさんって、海の……海女さん?」
驚いて、何ともへんてこな受け答えになってしまったが、「海に梅ちゃん」は「空に雲」くらい、しっくり一つに納まった。
「高校を卒業してから7年間は、地元の観光協会で事務の仕事をしていたのですが、実家が海の近くの民宿で、父は漁にも出ますし、母も海に潜ります。」
「それなら、立派な家業手伝いだよ」
「えっ?」
「だってほら、大きくまとめたら、家業手伝いに変わりないから」
「あっ」と小さな声を立てた梅ちゃん。