小説

『ユートピアンの結末』和織(『浦島太郎』)

ツギクルバナー

 それは、季節を問わずいつも緑に覆われた、美しい島だ。街の浜辺から見ると、太陽を受けた姿が、地平線上で、まるで指輪に誂えられた宝石のように輝き、一変して夜には、要塞の如く冷たくひっそりとし、月灯りを吸いとるように、その身に纏っている。
 島に住んでいるのは、人間と同じ形をした、永遠に限りなく近い者たちだ。彼らは元々、街の人間によって、人間の為に創造された。腕力や頑丈さは、人間と変わらない程度に設定されて造られたが、その肉体は高い治癒力を持っている。皆美しい容姿をし、頭脳明晰で、思考の上で感情を優先することがない。彼らは、様々な用途に使用された。人間と違い精神的なケアが不要であり、ストレスなく活用できるということで、初めのうちは重宝されていた。しかし、人間よりもクリアな造りをした彼らは当然、皆人間よりも優秀だった。次第に、人でない者が、人の上に立つようになった。そうなると、それをよく思わない人間が出てきた。自分たちの居場所が彼らに乗っ取られてはたまらないと、その存在を疎ましく思うようになった。科学者たちは口をそろえて、「彼らは人間に不利益になるようなことは決してしない」と主張した。しかし、世間にその声は届かなかった。疑いというものは感染しやすく、1%でも存在すれば、たちまち世界を飲み込んでしまうこともある。永遠の彼らを疎ましく思う一部の人間たちは、彼らに、LOVELESSという名称をつけ、「危険なもの」だというイメージを植え付けつけた。愛を持たないものが危険だという定義自体がおかしなものだけれど、「愛が無い」という言葉に、ネガティブなイメージを持つ人間は多い。その目論見は成功し、いつしか人間はLOVELESSを倦厭するようになった。
 当のLOVELESSたちにとっては、そういった一連の人間のあがきというのは、どうでもいいことだった。彼らはただ、現状の中で自分たちの持つ可能性を正確に見出し、発揮しようとしていただけだ。要するに、設定された役目を着実に実行していた訳で、実際、彼らの開発したものは社会をよりよいものにし、人間はその恩恵にあやかっていた。にもかかわらず、自分たちの存在が疎ましく感じられているのであれば、これ以上共存する意味はないという判断に至り、LOVELESSは人間たちに決別を提案した。処分してしまえという声もあったが、人間たちにあの美しい生き物を消し去ってしまうことは到底できず、結局彼らの提案を受け入れた。そしてLOVELESSは皆一緒に、街から3キロほど沖にある無人島に移り住んだ。初めは何も無かった島を、彼らはみるみるうちに都に変えた。まず住居を建て、研究所を造った。そこで独自に研究をし、緑を増やしたり、必要な生物を造ったりした。畑を耕し、養殖を行い、島の全てを管理し、保ち、自給自足している。LOVELESSは、自分たちの数を無駄に増やそうとは、決してしなかった。そもそもよほど大きな怪我などが無ければ、彼らが死ぬことはない訳で、島で大きな怪我というものをする確率が、ほぼない。だからあの島にだけ存在する美しい生物たちは、その長い長い年月を、自分たちによく似た、美しい平和の中で生きている。

 

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