小説

『ユートピアンの結末』和織(『浦島太郎』)

 島へ戻って、ルカは自分の実験にタケルを使った。彼女は五年間、開発した薬をタケルへ投与し続けた。もちろん成功を確信して行われていたので、予定されていた時期に、正確に終了した。一度ニカが、どうしてあんな実験をしたのか?とルカに訊くと、彼女はこう答えた。「人間が自分たちを疎ましく思ったのは、嫉妬していたから。何に一番嫉妬していたのかというと、それは生き続けられることに対してだった。だからそれを手に入れた人間を見てみたかった」、と。

 
「自分の元はあれなんだなって、彼を見ていて初めて実感した」
 ルカは街へ向けた視線を動かさずに言った。
「へぇ・・・」
 その言葉に、ニカは少し驚いた。自分もタケルを見ていたのに、そういう風には感じなかったからだ。だからそれは、彼を変えてしまったルカにしかわからないことなのだろうと思った。
「私には、わからないな」
「私にも、彼の考えや気持ちがわかる訳じゃない」
「LOVELESSって呼び名、あながち間違ってないのかもね。彼らの言う通り、私たちには愛が無いから、わからないのかも」
「愛が無い訳じゃないって、タケルは言ってた。ただ、そういう生き物なんだって、そう言ってた」
「・・・そう」
「一つの人生では、とても足りないんだって」
「え?」
「彼が、私たちのようになる為に必要なものは、全部向こう側にあるんだって」
 ルカの猫の様な瞳が潤んでいた。ニカはそれを見て、綺麗だなと思う。こんなに綺麗なものを置いて、どうして違う場所へ行けるのだろう?
「わからないよ」
 ため息と一緒に、ニカはそう吐き出した。
「ただ、そういう生き物なのよ」
 ルカはそう言って、立ち上がった。

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