なにか溜め込んでいるな。
ようやく娘の悪態の原因を突き止め、千恵子はため息をついた。いつものことながら、我が娘にはほとほと困らされる。もう小学五年生になるというのに、自分の気持ちをうまく吐露することができないのだ。友達はいないわけではなく、単に自分の気持ちを犠牲にして相手を優先させてしまう、そんな面倒くさくなさそうで面倒くさい性格を抱えているのが娘の真紀だった。
このままでは将来、男にいいように使われるだけの女になってしまわないか心配になる。いつか来てしまうかもしれない未来を考えながら、千恵子は真紀の部屋の掃除を始めた。
この年頃になると、女の子ではなく女性としての自覚が芽生えてくるのか、少女コミックの間にはティーンエージャー用のファッション誌が何冊か申し訳なさそうに並べられている。もうかわいい人形やゲームというよりも、女としての魅力を底あげる洋服や小物が部屋の中心になり替わりつつあるのだ。千恵子は少し寂しい気持ちになった。
見た目よりも微妙に扱いずらい性格をどうにかしてほしい。望郷の念に似た気持ちを抱きながら、千恵子は思った。小さいころから笑顔のかわいい娘だったが、なかなか本音を言ってくれず、真紀の気持ちを知るのに夫婦そろって苦労した覚えは多々ある。笑顔の裏に人知れずの我慢が息をひそめていることも珍しくなかった。もう少し、自分の気持ちをうまく表現できたなら、真紀自身も今より生きやすくなると思うのに。
誰に似たのやら。千恵子は軽い頭痛を抑え、机の一番上の引き出し、開けてはいけないだろう少女の秘密の隠し場所を母親特権でこじ開けた。その歳で母親に隠し事をしようなど言語両断。恨むならこの私の腹の中で面倒な性格を選んだ自分を恨みなさい。毎度毎度のことながら、真紀の本音を知るためにはこうするしかないのだ。