「彩夏、何してんの？」
冬の寒さに身を縮めながら登校すると、彩夏が下駄箱の中を覗き込んでいた。彩夏は片手に革靴を持っているからその仕草自体は別に不自然ではないのだけど、覗き込んでいるのは彩夏の下駄箱ではないはずだ。
事実、こちらを見た彩夏は明らかに表情をこわばらせた。
「彰斗には関係ないしっ！」
彩夏は下駄箱にパッと手を突っ込むと、蓋を閉じてバタバタといってしまった。
なんだったんだろう。彩夏が開けていたのは俺の二個上での下駄箱で、そこは同じクラスの晴樹の場所だった。
ちょっと周りの様子を伺ってから、晴樹の下駄箱を開けてみる。そこにはお約束のように真っ白い封筒が入っていた。
――へえ、彩夏が晴樹のことをね。
そんな風に平静を装って心の中で呟いてみるけど、心臓が嫌な高鳴り方をしている。
確かに最近晴樹が彩夏に話しかけてるのはよく見たけど、親密って感じでもなかったし特に気にしていなかった。だから、まさかという思いで口が乾く。彩夏とは小さい時から見知った仲で、高校までずっと一緒だったし、この腐れ縁はずっと続いていくんだろうと漠然と思っていた。だけど、そんなのは俺の勝手な願望でしかなかったのかもしれない。
後ろめたさを感じながらそっと封筒を手にとってみると、ざわりとした胸の不快感が強まった。中身を知りたい衝動と、これ以上はいけないという葛藤が短時間のうちに交互に明滅する。
