小説

『しあわせなお地蔵様』川瀬えいみ(『笠地蔵(日本各地)』)

 小さな村の外れの路傍に、石のお地蔵さんたちは並んで立っていました。
 五体の大人のお地蔵さんと、一体だけ小さな子供のお地蔵さん。小さなお地蔵さんは、皆に『小さ子』と呼ばれていました。


 村は、冬は深い雪に閉ざされてしまいます。
 村人たちは、長い冬の間は静かに春を待ちわび、やがて春の訪れに歓喜し、夏には懸命に田畑を耕し、秋には冬を越す準備を始めます。
 それが、この村で昔からずっと続いてきた自然と人の営みでした。


 数十人いる村人たちの中でいちばんお地蔵さんたちを慕っていたのは、小さな男の子でした。
 野山を駆けて遊んで家に帰る途中、男の子は毎日お地蔵さんたちに手を合わせ、父母の健康と田畑の実りを願います。お地蔵さんたちの並びの端にいる小さ子には、いつも花を供え、時には花冠を作って飾ってくれることもありました。
 小さ子は優しい男の子が大好きで、男の子と一緒に遊べたらどんなにいいかと、いつも夢見ていたのです。
 そんな小さ子に、お山のキツネは言いました。
「そんなにあの子と仲良くなりたいなら、人間の子供に化けて、一緒に遊べばいいのに。きっととっても楽しいよ」
 気持ちは揺れましたが、大人の地蔵たちが許してくれるわけがないと考えて、小さ子は我慢したのです。
 地蔵の務めは、すべての人間を見守り、救うこと。人間の子供と遊ぶことではないのです。

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