小説

『しあわせなお地蔵様』川瀬えいみ(『笠地蔵(日本各地)』)

「どうぞ、どうか、受け取ってください」
「我等より、おじいさんたちの方が助けを必要としていたのに」
「おじいさんは、我等のために祈ってくれた」
「おかげで、我等の心は病から救われた」
「本当は、我等が人の心を導き、救わなければならなかったのに」
 恥じ入るようにそう言って、雪の中を帰ろうとするお地蔵さんたちを、
「せめて雪がやむまで、私たちの家にいてくださいませ!」
 おじいさんとおばあさんは懸命に引きとめました。
 お地蔵さんたちは少し迷ったようでした。
 けれど、小さ子が嬉しそうにおじいさんの家に飛び込んでしまったので、結局六体全員がおじいさんの家の土間に並ぶことになったのです。


「笠をどうもありがとう!」
 小さ子が大きな声で礼を言うと、大きなお地蔵さんたちも皆、同じ言葉を口にしました。
 おじいさんとおばあさんはびっくり仰天。
 まさか、お地蔵様にお礼を言われるなんて。そんなことがあるなんて、おじいさんたちは考えたこともありませんでしたから。


 囲炉裏の火に照らされながら、お地蔵さんたちは、屋根のつららが融けていくように、ぽつりぽつりと話し始めました。
「おじいさんに笠をかぶせてもらって、我等は考えたんです。今、我等にできることをしないと、我等が今ここにいる意味がない――と」
「だから、我等は決意したんです。我等は、我等の力をすべて使って、今、我等にできることをするのだと」
 今、お地蔵さんたちにできること。それが、正月の餅もないおじいさんたちを助けることだったのでしょうか。
「お地蔵様……」
 お地蔵さんたちの気持ちが有難くて、あまりにもったいなくて、おじいさんとおばあさんの目には涙がにじんできてしまいました。

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