小説

『しあわせなお地蔵様』川瀬えいみ(『笠地蔵(日本各地)』)

 
 男の子は、青年になってからも、お地蔵さんたちへのお参りを欠かしませんでした。
 お父さんが亡くなった時は、お父さんが無事に極楽に行けるように、お母さんが亡くなった時は、お母さんが迷わずお父さんの許に行けるように、青年はお地蔵さんたちに祈りました。
 そして、小さ子にお花を供えて、家族のいなくなった家に帰っていくのです。
 そんな青年を見送っている小さ子に、大陸から渡ってきたツルが言いました。
「ずっと好きだったんでしょう? 人間の娘に化けて彼の家に行って、お嫁さんにしてもらえばいいのに」
 小さ子は、もちろん、青年のことをずっと大好きでした。けれど、地蔵がそんなことをしていいものかと迷っているうちに、青年は、綺麗で優しそうな娘さんと恋に落ち、結婚してしまいました。
 少し寂しいけれど、これでよかったのだと、小さ子は思ったのです。
 地蔵の務めは、できる限り多くの人々を救うこと。青年のお嫁さんになって、青年一人の幸せのために努めるより、二人の幸せを見守ることの方が、地蔵の役目に適っていますから。


 青年のお嫁さんは、青年と同じように信心深くて働き者でした。
 あまり日の当たらない山間の小さな畑と田んぼを、毎日どれだけまめに耕しても実りは少なく、二人はいつまでも貧しいまま。
 それでも、小さ子の目には、二人はとても幸せそうに見えました。

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