『ひらいてひらく』
小山ラム子
(『鶴の恩返し』)
小学六年生の新太は、ある日、隣のクラスの美羽が家の鍵を公園の噴水に落として困っているところに出くわす。翌日、美羽がクラスの男子に意地悪をされていたことが分かり、その場でかばう行動をした新太だったが、美羽はそれを喜んではくれなかった。
『ニートと私と灯油のタンク』
篠原ふりこ
(『女殺油地獄』)
「か、か、か、金を出せぇ!! さ、さもないと、刺すぞ! 俺、本気、だからな!」小さなナイフを両手で構え、盛大にどもりながら私の住む狭いアパートの玄関で騒ぐ男が一人。仕事を終え、疲れた体を引きずってシャワーを浴びた直後の出来事だった。
『しあわせなお地蔵様』
川瀬えいみ
(『笠地蔵(日本各地)』)
村はずれの路傍に立つ六体の地蔵。一体だけ子供の小さ子は、毎日花を供えてくれる優しい人間の男の子が大好きだった。だが、全ての人間を等しく見守り救うのが地蔵の役目。彼とだけ仲良くなることは、地蔵には許されない。そうして数十年。歳を重ねても、変わらず優しい彼に、小さ子と地蔵たちは……。
『焦がす』
伍花望
(『八百屋お七』(東京)『地獄変(京都)』)
赤い満月の夜。居酒屋のバイトを終えて裏口から出たところで、俺は男に声をかけられた。男が提示した額は二十万。俺は軽い気持ちで男についていった。部屋に入ると、さっそく服を脱ぐようにいわれる。そこからはじまる想像もしていなかった二人きりの時間が、俺を変えていく。
『当たりの箱はどの箱か』
五条紀夫
(『舌切り雀』)
箱を開けて欲しいという依頼を受けた鍵師は、老紳士に監禁されてしまう。閉ざされた部屋の中、目の前には二つの箱が置かれている。一方には現金が、一方には毒が、入っている。いずれかの箱を開けなければならない、命を懸けたゲームが始まる。
『透明みたい』
室市雅則
(『不知火の松(神奈川県川崎市)』)
石油コンビナートの夜勤専門の警防員として働く男。人と関わることがなく、仕事で使うポータブルデバイスに話しかけるだけの日もある。漫然と日々が流れる男の楽しみは、夜明け前の空に煙突から噴き上がる炎を見ることだった。
『女神』
望月滋斗
『死神(落語)』)
プロポーズに失敗し途方に暮れていた男は、女神と出会ったその日から天使が見えるようになる。天使は恋が成就する見込みのある女性を知らせてくれるのだが、男はなぜか脈ナシと思しき女性にばかりアプローチし、案の定フラれることを選ぶ。
『白狐』
杉蔵一歩
(『運』芥川龍之介)
化け狐を恐れ神社で一夜を明かしたユキは、サヨという女と出会い、夫が盗人という悩みを打ち明ける。盗みをやめると言う夫に安心したユキだが、盗人連中とのトラブルに巻き込まれる。彼らに命を狙われたユキと夫の前に、化け狐が姿を現した。
『カチカチ寺』
大中小左衛門
(『カチカチ山』)
応仁の乱で両親と家を失った少年・清太はとあるタヌキの僧に拾われ避難民が身を寄せる寺で暮らすことになる。悲惨な時代の中で必死に人を助けようとするタヌキの献身的な姿を見て、清太はどうしてこれほどにもタヌキが善良な心を持っているのか、疑問に思うようになる……。