小説

『ピノキオの鼻のような由真のテイル』もりまりこ(『ピノキオの冒険』)

 すごくネガティブなところがいま花開いているようなので、すぐになにかに甘えたくなって。誰かに、何かをそれはちがうと窘められて、すぐ縮んでしまう。
 縮んだ後溶けてしまう。
 蛞蝓に塩かけたときみたいに。
 ピノキオの鼻も塩、たとえばクレイジーソルトとかふりかけたらよかったんじゃないかと思っていたらマスク越しの由真がこっちを見て、目元だけで笑ってる。

 由真とは隣同士だったのに理不尽な席替えがあって今は離れ離れだ。

 知らない人達に囲まれて、そこにひとりぽつんと座らされて。
 教室のすぐ対岸の席には、いやいやでもなじんでいた人たちがいる。

 親しくなれない人たちと上陸してしまった陸の孤島だねって思う。
 さして仲が良かったわけじゃなかったのに、まったく知らない誰かよりは昨日まで隣の席にいた横川さんの方がましだった。
 びっくりするけど横川さんでいいから、喋りたいって気持ちになってくる。
 でもそっちにわたしが行くことはゆるされず。
 とかって思ってたら、ひとり眼の前に女の子がやってきて。ふたりでがんばろうねみたいな目線だけの会話をした。
 未だかつていじめられてない彼女は、ちょっと余裕の笑み。
 口角の上がり方がマスクの上からでもわかった。
 彼女がふいにそこに現れたとき、生物に一度も出逢うことのなかった砂漠でやっと一匹のサソリに出逢えたみたいなとても、逢いたかった思いにかられ、かられた。

 たかが、席替えなのにどうかしているわたし。
 ちょっとだけ由真に後ろめたさも感じながら。
 だからどうかしているってわたし。
 その女子菅田さんは、とても気の利く態度でまわりの子たちに接した。わたしは、如才ないとかそういうことに欠けているタイプなので、なにもできず彼女の立ち居振る舞いにただただ感心していたら、とつぜん先生が、あなたはいいから、あっち側のすきな席に座りなさいって言って、彼女はそこから去ることを要求された。
 わたしの眼の前からは彼女が消えて。
 もとの孤島ぷらす見知った人のいない空間に後戻りした。

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