小説

『ピノキオの鼻のような由真のテイル』もりまりこ(『ピノキオの冒険』)

 椅子取りゲームの最後の椅子にも、座れなかった幼稚園時代を思いだしているかのようなこの頃だけれど。中学になったって椅子取りゲームはそれぞれに続いていた。
 あの頃思っていたのは、どうしてみんなの数だけ椅子を用意しないんだろう。ひとりあぶれるだれかをうみだすなんておかしいって、強く思っていたけれど言えなくて。
 別に孤独だったわけじゃない。

 幼稚園の篠原妙子先生は、いつもわたしが椅子にあぶれるのでピアノで曲を弾きながら、その曲が終わる寸前にわたしの名を呼んでそこ空いてるよって教えてくれたのに、その声を聞きつけた誰かが座ってしまうしまつで。ついに、先生は曲が終わるや否や、猛スピードで立ち上がりいっしょに座りましょっていって最後のひとつの椅子に誘ってくれたりした。

 別にわたしは孤独じゃなかった。
 孤独じゃなかった。
 あのゲームがただ好きになれなかっただけだった

 由真の背中は今日はそれほど寂しそうじゃなかった。
 理由はしらないけれど。一応、保健室登校しているのにずっと教室にいる。由真にしてはめずらしいことだ。

 すこしだけおどおどしている国語教師が言った。
 ピノキオの鼻が伸びた理由を自分なりにみんなの前でプレゼンしてみろという課題がでた。
 面白くなくて、うざうっせえって思いつつも、わたしはピノキオの鼻が嘘をついたら伸びるとかはどうでもよくて、嘘ぐらい皆つくだろう。あんただってつくだろうにって国語教師の袴田の顔を見ていた。
 ピノキオのように鼻が高かった。

 由真の声はいわゆるアニメ声だ。
 親が厳しくてアニメも見たことのない由真は、声を出すときらきらと氷の欠片が喉の奥から飛び出してくるんじゃないかっていうような、素敵な声なのに。みんなはアニメ声アニメ声ってはやしたてる。

 国語の授業の朗読の時だった。

 萩原朔太郎の「竹」を由真が小さな声で朗読した。

「光る地面に竹が生え 青竹が生え 地下には竹の根が生え」

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